国土交通省、個人宅配ドライバーの労働実態を調査
2023/05/25 契約法務, コンプライアンス, 労働法全般, 流通, 物流
はじめに
インターネットを通じた商品注文が当たり前となる中、確実かつ迅速な配達が実現されている日本の物流。しかし、ドライバーの確保など、物流システムの維持には困難が伴います。
現状、日本の物流システムを機能させるうえで、大手物流・配達会社が担う役割は非常に大きなものとなっていますが、それに加えて、軽貨物運送事業者(大半がいわゆる、個人宅配ドライバー)の貢献も無視できないものとなっています。国土交通省の発表によると、軽貨物運送事業者はこの10年で3割以上増え、2021年度次点で20万業者を超えているといいます。そんな中、個人宅配ドライバーの長時間労働が問題となっています。
こうした背景を受け、国土交通省は、今春、軽貨物運送事業者の実態調査を行いました。
軽貨物運送事業者の実態
首都圏や近畿圏の軽貨物運送事業者など1万人を無作為に抽出して行った実態調査。日常的な取扱い荷物量や主要取引先、発注トラブルの有無などをアンケート形式で質問するもので、772人からの回答があったといいます。
(1)取り扱い荷物量の増加と長時間労働化
アンケートの結果、軽貨物運送事業者の1日の平均労働時間は41%が8時間以下。その一方で21%が13時間以上働いていました。
また、通常期の1日の荷物量は、100個未満が53%、200個以上は11%。しかし、繁忙期では200個以上が26%に増加しました。
(2)荷主による違反原因行為を伴う依頼
フリーランスとして仕事を請け負う立場上、一般的に、荷主に対して立場が弱いとされる軽貨物運送事業者。荷主から無理な依頼を受けることも少なくないようです。
アンケートでは、荷主から違反原因行為を受けた経験があると回答した割合が全体の54%(414人)。違反原因行為の内容別では、国土交通省の告示で定められた拘束時間を超えて働かなければ対応できない量の荷物を依頼されたケースが最も多く、285人が回答。他の違反原因行為としては、適正な運行では間に合わない到着時間を指定されたケースが194件、最大積載量を超える荷物を積むよう求められたケースが129人、異常気象時の運行強要が68人などとなりました。
(3)ずさんな運航管理・労働管理
貨物自動車運送事業法上、軽貨物運送事業者は一般運送事業と比べて、運行管理等に関する規制が緩く、また、個人事業主の場合、労働基準法も適用されません。そのためか、運航管理や労働管理においてずさんな管理が蔓延しているといわれています。
アンケートでは、法的に義務付けられている酒気帯び確認などについて、25%が実施していないと回答したといいます。
また、運転時間についても、国の基準である「2日平均で1日9時間以下」を守っていない事業者は39%にのぼり、そのうち14%は基準自体を知らなかったと回答しています。
国交省は今回のアンケート回答を元に今後、どのような対策が必要となるかを検討していくとしています。
需要高まる運送業界
総務省統計局によると、2021年において、二人以上の世帯の中でネットショッピングを利用した世帯の割合が52.7%。調査開始以来の初めての50%超えとなりました。それだけ、ネットショッピングが一般化していることを示しています。
項目別の増加率に目を向けると、「食料」が6.89%増加。年齢という切り口では、全ての年齢層においてネットショッピングの支出金額が前年よりも増加しましたが、特に70歳以上の世帯は27.6%の増加率で最も高い結果となりました。
こうした運送需要の高まりから、軽トラックなどで荷物を運ぶ軽貨物運送事業者は年々増加。運送各社は個人宅配ドライバーへの業務委託を行うことで、人手不足解消を図っていると見られています。
運送の担い手が増えることで、労災認定の数も比例して増加しています。厚生労働省によりますと、令和4年度の陸上貨物運送事業の死傷者数は16,580人で、前年比225人、1.4%増えたということです。事故の類型としては、「墜落・転落」4,294人(前年比202人・4.5%減)と最多だったほか、「転倒」も前年に比べて増加しました。
コメント
2024年4月1日より、自動車運転業務に年間残業時間上限960時間の規制が設けられます(働き方改革関連法)。この規制により、企業に雇用されるドライバーの労働環境改善が期待される一方、その分、不足する業務量を個人宅配ドライバーへのさらなる委託増でカバーする動きが起こると予想されています。
個人宅配ドライバーの労働環境の悪化は、担い手不足による物流の機能不全をもたらすリスクがあるのみならず、交通事故の多発など市民生活全般に大きな影響を及ぼすおそれがあります。
企業として個人宅配ドライバーを活用する際にどのような対策がとれるのか。法務としても、委託先のドライバーの労働環境に配慮した適法・適切な発注が行われるよう周知する必要がありそうです。
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