婦人服ブランド・ラピーヌ、高島屋を独占禁止法違反疑いで提訴
2023/06/09 訴訟対応, 独禁法対応, 独占禁止法
はじめに
大手デパート「高島屋」を運営する株式会社髙島屋と42年間取引を続けてきた株式会社ラピーヌ(東証スタンダード上場、婦人服ブランド)。しかし、このほど、ラピーヌは髙島屋との取引を一時停止すると発表しました。さらに、ラピーヌは独占禁止法違反を理由に髙島屋を提訴しています。半世紀近くをかけて築いて来た両社の関係性を変えたものは、契約条件の変更通知でした。
事案の概要
1981年3月から42年間にわたり取引を続けてきた髙島屋とラピーヌ。2023年2月期には、連結売上高の約10%を占める製品納入を行うなど、ラピーヌは高島屋を主要取引先に位置付けてきました。
しかし、ラピーヌの発表によると、2021年12月16日以降、髙島屋からラピーヌに対し、出店店舗に関する契約条件変更通知があったといいます。
当該通知をラピーヌ側で検討したところ、優越的地位の濫用が疑われる内容と判断したため、高島屋に対し、取引条件の是正を求めたそうです。しかし、髙島屋はこの要求に応じず、さらなる優越的地位の濫用が疑われる対応を続けたといいます。
そのため、ラピーヌは5月31日をもって交渉を打ち切り。髙島屋を公正取引委員会に申告すると共に、東京地方裁判所に提訴しました。6月1日以降、髙島屋との取引は一時停止しているそうで、今後、法廷や公正取引委員会などの公の場で交渉を重ね、取引の正常化を早急に図るとしています。
契約条件変更の注意点
今回のラピーヌ・高島屋のケースのように、契約条件の変更をめぐり、企業間でトラブルになるケースは少なくありません。契約条件の変更交渉は、新規の契約締結と異なり、
・取引を通じて企業間で一定の関係性(慣例・力関係・人間関係等)が構築されていること
・契約終了とした場合のスイッチングコスト(取引先変更)を忌避しがちなこと
などが特徴です。そのため、交渉にあたり、様々な思惑・しがらみが渦巻くことになります。
また、契約条件の変更が法的な規制に抵触する場合もあります。例えば、強制的な条件変更を行い、契約金額の不当な引き上げ、納期の不合理な短縮、サービス範囲の過度な削減、保証責任の付加、責任範囲の不当な制限などを行う場合には、独占禁止法第2条9項5号に規定される「優越的地位の濫用」に該当するおそれがあります。
では、トラブルを避けるためにどのような点に注意すればよいのでしょうか。
1.書面での通知
通知内容や変更内容を明確に伝えるため、書面での通知が望ましいです。変更の合意についても書面でやり取りし、双方の合意が取れたことを確実に確認できるようにすることが大切です。
2.事前相談と合意形成
当然ながら、変更にあたり相手方企業との合意が必要となります。事前に相手企業との間で変更内容を相談し、変更内容について、双方が納得のいく形で合意することが重要です。
3.公平な取り扱い
不公平な取り扱いと解釈されないよう、変更が必要な理由や背景を合理的かつ明確に説明する必要があります。
4.通知期間の遵守
後日のトラブルを避けるうえでは、原契約書に定めた通知期間および関係法令に定められた通知期間を遵守することが重要です。
5.変更内容の明確化
変更される契約条件や内容、影響を受ける範囲を明確に伝え、相手方企業が変更内容を正しく理解できるように努めることが大切です。
コメント
ラピーヌは、コロナ禍の営業自粛・外出自粛等による経営悪化の影響を受け、今後、「収益に見合ったコスト構造への改善を図って行く」と表明しています。そんな中、昨年2月に事務所が入っていたビルのオーナーTOCに対し保証金返還訴訟を起こし、今回も高島屋を公正取引委員会に申告し提訴するなど、リーガル領域で積極的な活動を繰り広げています。
コストセンターと言われることも少なくない法務部門。コスト構造の改善を謳うラピーヌにおいて、臨床法務を強化する動きがあるのが、とても興味深いところです。
現状、高島屋からラピーヌに対しどのような契約条件の変更通知が行われたのか、明らかにされていませんが、今後のさらなる動向に注目が集まります。
【関連リンク】
ビル賃貸借契約の解約をめぐりTOCと元賃借人が双方を提訴
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