東京地検、風力発電会社からの収賄疑いで秋本衆院議員の事務所等を家宅捜索
2023/08/07 コンプライアンス, 行政対応, 刑事法, エネルギー関連
はじめに
再生可能エネルギー政策の一環として取り組まれている洋上風力発電を巡り、日本風力開発株式会社から自民党衆院議員、秋本真利氏が計約3000万円を受領していたとされる事件で、東京地検特捜部は8月4日・5日、関与した秋本議員や、日本風力開発などに家宅捜索に入りました。
事案の概要
今回、贈賄の疑いが持たれている日本風力開発は洋上風力発電事業を手がける会社です。洋上風力発電は、風車による発電を海の上で行う発電方法で、2050年カーボンニュートラルの目標に向けた「再生可能エネルギーの主力電源化の切り札」と位置付けられています。政府が2021年10月22日に閣議決定した第6次エネルギー基本計画の内容にも盛り込まれており、再生可能エネルギー関連で注目度の高い発電手法です。
2019年4月に施行された「再エネ海域利用法」では、政府が重点的に整備を促進する海域を指定し、入札で選出された事業者が最長30年間、指定の海域で占用が認められ洋上風力発電事業を行える旨、規定されています。
同法に基づき、経済産業省及び国土交通省は、2021年9月13日、秋田県沖の2つの海域を整備促進区域に指定し、同年12月10日付けで公募占用計画の受付を開始しました。
着床式洋上風力発電は、FIT制度(電力会社が一定価格で一定期間、発電した電力を買い取ることを国が保障する制度)の対象となっており、同事業により生み出された電力の買取価格は、再エネ海域利用法による一般海域での発電事業では入札制度により決まります。日本風力開発も入札していた秋田県沖の公募では、上限価格が29円/kWhに設定されていたそうですが、いずれの海域においても、三菱商事エナジーソリューションズ・三菱商事などによる企業連合が10円台前半の圧倒的に低い供給価格を示し、受注しています。
洋上風力発電の導入については、政府が発電量に関する目標を設定しているほか、業界目標として2035年までに発電コストを8~9円/kWh以下に抑えることを目標に掲げています。
その後、2022年9月に経済産業省及び国土交通省は秋田県沖の別の海域を整備促進区域として新たに指定し、公募を開始します。報道などによりますと、日本風力開発は、この公募にも参加し落札を目指していたそうですが、前年の秋田県沖の海域の公募で入札ができなかったことを知った秋本氏が、当時すでに公募が開始されていたこのプロジェクトについて、入札の評価基準を見直した上で手続きをやり直すよう、国会で何度も要求していたということです。
国会質問後、政府はプロジェクトの公募を停止。様々な事業者参入の促進などを目的に評価基準を見直し、2022年12月28日に改めて公募を開始しています。
それに先立つ2021年秋、秋本氏と日本風力開発の社長は馬主組合を設立(二人は馬主仲間とされています)。社長が2021年10月から2023年6月にかけて、同組合に対し20回以上に分けて計約3000万円を提供したといわれています。
東京地検特捜部は、この3000万円の提供は、日本風力開発から秋本氏に対して行われた、国会質問への謝礼だった可能性があるとみて家宅捜索に乗り出しました。
秋本氏側はこの3000万円について、入札便宜の意図はなく、提供先も組合であるため賄賂には当たらない旨主張しています。
会社から政治家への寄付は違反?
企業が事業を進める中で、政党や政治家と接点を持つ機会も十分にあり得ます。どういった行為が適法と認められ、逆に違反とされるのか確認しておくことが重要です。
■適法とされること
・会社などからの政党・政党支部、政治資金団体に対する寄付
・個人の立場での政治家個人、政党、政党支部、政治資金団体に対する寄付
・会社などの団体が負担する党費や会費は寄付とみなされる
■禁止されていること
・会社などから政治家個人に対する寄付
・国や地方公共団体から一定の補助金を受けている団体は寄付ができない
・3事業年度以上継続して欠損を生じている会社は欠損がうめられるまでの間寄付をすることができない
上記の禁止事項は一例ですが、違反した場合には寄付をした側、寄付を受けた側ともに1年以下の禁錮または50万円以下の罰金が科されるほか、会社等の団体に対しても罰金刑が科されるおそれがあります。
コメント
強制捜査を受けて、秋本氏は外務政務官を辞職し、離党届を提出しました。日本風力開発も家宅捜索を受け、任意での取り調べがされています。
社長による資金提供が贈賄の疑いを持たれている今回の事件。法務としては、経営陣に対する贈収賄関連の認識強化の必要性を痛感したのではないでしょうか。今後、事件がどのような展開となるのか注目されます。
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