公取委、インボイス未登録農家への減額通告でJTを注意
2023/09/04 税務法務, コンプライアンス, 行政対応, 下請法, 独占禁止法
はじめに
日本たばこ産業株式会社(JT)が葉タバコ生産農家に対し、「インボイス制度に登録しない生産農家の取引価格を引き下げる」と一方的に通告していた問題で、公正取引委員会がJTに対し注意を行ったということです。インボイス制度をめぐっては、その取り扱いをめぐり、各所で混乱が生じています。
JTが公正取引委員会から注意
報道などによりますと、JTは昨年、仕入れ先である葉タバコ生産農家に対し、協議をすることなく「インボイス制度に参加しない場合、代金から消費税分を全額引き下げる」と伝えたといいます。
これに対し、公正取引委員会は、「取引価格を一方的に引き下げる対応を行なった場合、独占禁止法に違反する恐れがある」として注意を行い、改善を求めたということです。
JTと農家側は現在、当面3年間は免税農家に対して消費税相当額の80%を支払うこととし、引き下げ額を小さくすることで農家の組合と合意しているということで、今後も協議を続けると報道されています。
インボイス制度開始がもたらす影響
今回のJTによる取引価格引き下げ通告は、インボイス制度が開始される10月以降、インボイス制度未登録の業者との取引において、消費税分の控除や還付が受けられなくなることが背景にあります。
インボイス制度とは、今年10月1日から開始される、消費税に関する制度です。一般消費者がスーパーなどで買い物をする際の消費税は今回関係ありませんが、企業は売上にかかる消費税から、その売り上げるために仕入れたものや経費などへの消費税との差額分を納めたり、多く払いすぎていれば還付を受けたりしています。事業者は控除や還付を受ける際、仕入れなどで取引先の会社に支払った消費税分の請求書を用いています。
【売上げの消費税額 - 仕入れや経費の消費税額 = 納付する税額】
この請求書に関し、現在は特段決まりはありませんが、制度開始後は、仕入税額控除を受けるためにはインボイスを保存しておかなければならなくなります。インボイスは、正式名称は「適格請求書」と呼ばれ、現在の請求書や領収書などにインボイスの登録番号を記載されたものを指します。
インボイスの登録番号は、適格請求書発行事業者になるための登録申請を行い、申請が認められると事業者に発行されます。法人だけでなく、フリーランス・個人事業主も申請が可能です。
課税売上1,000万円以下の事業者は、免税事業者として消費税の納付を免除されていますが、免税事業者はインボイスを発行できないため、発注事業者が免税事業者と取引した場合、消費税分の控除や還付を受けられないことになります。そのため、今回のJTのように、発注事業者が取引先に対し、インボイス制度への登録を求める動きがあります。
しかし、インボイス制度に登録することで事業者は年間の売上が1000万円以下であっても消費税を納めなければならなくなるほか、消費税の申告などにかかる作業負担が増えることから、登録を見送る事業者も少なくないということです。
なお、経過措置として、発注事業者は、免税事業者からの課税仕入れについて、インボイス制度実施後3年間は仕入税額相当額の8割、その後の3年間は5割の控除ができるとされています。
独占禁止法・下請法違反のおそれ
上述のように、取引先企業がインボイス制度に未登録の場合、消費税の控除などを受けたい発注事業者にとっては、経済的デメリットが生じるおそれがあります。
そうしたことから、10月以降のインボイス制度開始に向け、発注事業者が取引先企業やフリーランスなどとの間で取引価格について話し合いを持つケースが増えています。しかし、中には、消費税相当額を取引価格から引き下げると文書で一方的に通告を行った事例なども聞かれます。
すでに公正取引委員会は、イラスト制作業者・農産物加工品製造販売業者・ハンドメイドショップ運営事業者・翻訳者と取引する人材派遣業者・電子漫画配信取次サービス業者など、複数の発注事業者に対し、独占禁止法違反行為の未然防止の観点から注意を行っています。
こうした注意を行うのは、取引上優越した地位にある発注事業者が、上述した経過措置があるにも関わらず、インボイス制度未登録の免税事業者に対し、「消費税相当額を取引価格から引き下げる」などと一方的に通告することは、独占禁止法上問題となるおそれがあると考えるためです。また、同様の通告を行う下請法上の親事業者に対しても、同様に下請法上の問題が生じるおそれがあると注意を呼びかけています。
インボイス制度の実施に関連した注意事例について(公正取引委員会)
コメント
さまざまな不安の声が事業者、フリーランスから上がるインボイス制度。声優などが反対の声をあげて署名活動を行う姿もニュースとなりました。一方で消費税が公正に納税、控除され、正確な税額の把握や業務の電子化のために必要だという声もあります。
フリーランスを活用する企業が増えている昨今、インボイス制度は大企業においても他人事ではありません。免税事業者と今後どのように付き合っていくのか、独占禁止法や下請法に留意した対応が必要になります。
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