東京都、不適正な盛り土を人工衛星で監視へ/盛土規制法の罰則について
2023/09/06 コンプライアンス, 行政対応, 行政法, 住宅・不動産
はじめに
盛り土を原因とした大規模な土石流発生により、多くの人命が奪われた2021年7月の熱海での災害。この災害を受け、東京都では不適正な盛り土を人工衛星を使って監視するプロジェクトを開始しています。同プロジェクトの概要を解説すると共に、盛土規制法の罰則についても整理していきます。
人工衛星で把握
不適正な盛り土は土石流を引き起こす危険がある一方、行政の職員が広い山林を巡回して、ひそかに造られる盛り土を発見するのは容易ではありません。そこで東京都では、人工衛星を活用し、盛り土を宇宙から監視することによって災害を未然に防ごうと対策を進めています。
東京都都市整備局の発表によりますと、具体的には、人工衛星が撮影した地表面の画像データを年に複数回購入し、同じ地点の新旧の画像をAIなどで比較して無許可で造成された盛り土や、森林伐採といった造成の兆候がないかを監視するということです。そのうえで、不審な造成を発見した際には、職員が現地確認を行い、ドローンで上空からの調査を実施するとしています。
調査により違法であるとされた場合には、是正勧告などを行うほか、悪質性などに応じて刑事罰を科す見通しです。
東京都では、すでに2022年から一部地域でトライアル事業を開始しており、来年度には都内全域に対象を広げて運用を本格化させる方針です。東京都以外にも、川崎市でも同様のシステムを確立できるよう取り組みが為されるなど、対策が各地で行われています。
熱海での土石流災害
このように盛り土の対策が行われる背景には、一昨年に発生した熱海での土石流災害があります。この時は、土石流が港の方まで押し寄せ、災害関連死含む28名の命が奪われたほか、ライフラインにも大きな影響を及ぼしました。
この災害で注目されたのが、土石流の起点付近に不安定な状態で残っていた、およそ1万9000立方メートルの盛り土です。土石流が大規模になった一因とされており、盛り土の崩落を防げなかった責任の所在について遺族や被災者が2つの訴訟を提起し、現在も審理中です。
1.造成地の新旧所有者に対する損害賠償請求訴訟
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盛土規制法について
違法な盛り土が見つかった場合、「宅地造成及び特定盛土等規制法」(通称「盛土規制法」)に則って、処罰されます。この法律は、熱海での土石流災害をきっかけに「宅地造成等規制法」を抜本的に改正する形で令和5年5月26日から施行されました。盛り土などを行う土地の用途・目的に関わらず、危険な盛り土などを全国一律の基準で包括的に規制することを目的としています。同法の概要は以下のとおりです。
(1)スキマのない規制
〇 都道府県知事等が、宅地、農地、森林等の土地の用途にかかわらず、盛土等により人家等に被害を及ぼしうる区域を規制区域として指定
〇 農地・森林の造成や土石の一時的な堆積も含め、規制区域内で行う盛土等を許可の対象とする 等
(2)盛土等の安全性の確保
〇 盛土等を行うエリアの地形・地質等に応じて、災害防止のために必要な許可基準を設定
〇 許可基準に沿って安全対策が行われているかどうかを確認するため、
[1]施工状況の定期報告、[2]施工中の中間検査及び[3]工事完了時の完了検査を実施 等
(3)責任の所在の明確化
〇 盛土等が行われた土地について、土地所有者等が安全な状態に維持する責務を有することを明確化
〇 災害防止のため必要なときは、土地所有者等だけでなく、原因行為者に対しても、是正措置等を命令できることとする 等
(4)実効性のある罰則の措置
〇 罰則が抑止力として十分機能するよう、無許可行為や命令違反等に対する罰則について、条例による罰則の上限より高い水準に強化 等
※ 最大で懲役3年以下・罰金1,000万円以下・法人重科3億円以下
(概要については国土交通省ページより引用)
コメント
全国の999市区町村に約5万箇所あるとされている大規模盛土造成地。熱海の災害では、盛り土の土地の前所有者が、盛り土の高さを「(規制の範囲内である)15mまで」として熱海市に届けていながら、実際にはその高さは約50メートルに及んでいたといいます。このように届出よりも危険な高さに積み上がった盛り土が多数存在している可能性があります。
そんな中、テクノロジーを駆使して行政が監視を強化するのは好ましい流れと言えます。一方で、それは不動産関連の事業を展開する企業にとって、盛土規制法の規制が強化されることを意味します。盛土規制法の規制内容や罰則、今後、盛り土の発見が容易となることなどを、しっかりと現場に周知しておく必要があります。
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