長岡火力発電所に開始決定、特別清算の手続について
2023/09/27 事業再生・倒産, 会社法
はじめに
新潟県長岡市の長岡火力発電所が東京地裁から特別清算開始命令を受けていたことがわかりました。負債総額は約6億1500万円とのことです。今回は会社法の特別清算手続について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、長岡火力発電所は長岡市西部丘陵東地域で地元産の天然ガスを燃料とした火力発電を目的として2015年10月に設立されたとされます。同発電所は2018年から稼働していたものの、売電を予定していた新電力大手「F-Power」(東京都中央区)が経営難となり2021年3月に会社更生法の適用申請し、計画に狂いが生じたとのことです。同社は2022年9月30日に新会社「長岡パワージェネレーション株式会社」(東京都)に吸収分割の形で電力事業を譲渡し、今年6月14日の株主総会で解散、8月31日に東京地裁より特別清算開始決定を受けました。負債総額は6億1541万円とされます。
会社法の特別清算とは
会社法510条によりますと、精算株式会社の精算の遂行に著しい支障を来すべき事情があること、または債務超過の疑いがある場合に、裁判所は申し立てによって特別清算開始を命じることとなります。債務超過とは精算株式会社の財産がその債務を完済するに足りない状態を言うとされます。通常の精算手続と違って裁判所の監督のもとで適正に精算が行われていきます。しかし破産手続よりも厳格ではなく、簡易迅速な精算手続と言えます。何回かの債権者集会や協定案の作成、債権額割合で3分の2以上の債権者の同意など通常の精算には無い独特の手続が用意されております。一方で破産手続に認められている否認権や債権を迅速に確定させる制度などが無く、通常の精算と破産の中間的な清算手続きと言えます。
特別清算の手続きの流れ
会社が特別清算に入るには、まず前提として解散する必要があります。株主総会で解散する場合は特別決議を要します(309条2項11号)。解散すると、株主総会や定款で定めないかぎり当時の取締役が清算人に就任し、現務の結了、財産目録・貸借対照表の作成(492条1項)、債権者への公告・催告を行います(499条3項)。ここまでは通常の精算と同様です。そして債権者、清算人、監査役、株主は特別清算を申し立てることができます(511条1項)。債務超過の疑いがある場合は清算人は申し立てることが義務付けられております(同2項)。特別清算開始命令が出た場合、清算人は財産目録等を作成して債権者集会を開き、債権者に業務と財産状況、精算の方針などを報告します(562条)。その後協定案を作成し第二回債権者集会で採決となります。ここでは出席した債権者の過半数かつ債権額で3分の2以上の同意を要します(567条)。可決されますと裁判所による認可決定(659条1項)を経て弁済がなされ、裁判所による特別清算集結決定、精算結了登記で終了します(938条1項3号)。
特別清算のメリット・デメリット
特別清算手続を選択するメリットとしては、破産よりも柔軟で簡易迅速に精算が行えるという点が挙げられます。破産の場合は破産管財人に主導権が全て移ってしまいますが、特別清算は通常の精算手続と同様に会社の清算人が行うことができます。そして一番のメリットは消費者や世間一般のイメージとして、「破産」よりもマイナスイメージが弱いという点です。不採算グループ会社をたたむ場合でも、破産手続による場合は世間的なイメージダウンがグループ全体に波及するおそれもあると言われております。一方で特別清算については破産ほどのインパクトや悪い印象は薄いとされ、グループの信用低下を回避することができると言えます。特別精算のデメリットとしては破産手続ほどの厳格性がないことから、債権の存否に争いがある場合には適さず、また偏頗弁済等の防止ができず、債権者の同意を得られない場合は手続きが進まないといった点が挙げられます。
コメント
本件では長岡市の地元産天然ガスを使用した発電と、他社への売電による収益で借入金の返済を予定していた長岡火力発電所ですが、売電先企業の破綻により計画が頓挫し、電力事業の譲渡と解散・特別清算となりました。今後債権者集会や協定案の作成、裁判所の認可手続に移行していくものと予想されます。以上のように精算会社に債務超過のおそれがある場合、清算人や債権者、株主などから特別清算の申し立てができます。債権者の同意が得られない場合は破産手続に移行することとなりますが、うまく進めば世間一般的にイメージが良くない破産を回避することが可能と言えます。これによりグループ全体へのイメージダウンも回避できます。倒産手続には破産や特別清算の他、民事再生や会社更生なども用意されております。会社の財産状況や、業務の維持可能性などを踏まえて、最も適切な手続を選択していくことが重要と言えるでしょう。
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