「551蓬莱」男性社員の遺族が提訴、カスハラと労災について
2023/11/29 労務法務, 労働法全般, 外食
はじめに
豚まんで知られる「551蓬莱」の男性従業員が自殺したのは客からの理不尽なカスハラなどが原因だとして、遺族が国に労災認定を求める訴えを提起していたことがわかりました。月の残業も100時間程度であったとのことです。今回はカスハラと労災認定について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、男性は約2年間、551蓬莱のチルド商品の通信販売の電話受付を担当していたとされます。その際、客から「お前なんか向いてないわその仕事」「死ね」などといった暴言を繰り返し受けていたとのことです。また月の残業時間が100時間程度に及び、2017年にはうつ病と診断されて休職、翌年自殺したとされます。遺族が労災申請したものの、心理的負荷は強くなかったとして認められず、国を相手取り決定取り消しを求め提訴に至ったとのことです。国側は訴えの取り下げを求めているとされております。
カスハラとは
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは、顧客や取引先などからのクレームのうち過剰な要求や不当な言いがかりなどとされております。その判断基準は、(1)顧客からの要求内容の妥当性、(2)クレームを実現する手段・態様の社会通念上相当性、(3)従業員の就業環境が害されることと言われております。まず要求内容に妥当性が認められない場合、その態様を問わずカスハラに該当するとされます。要求内容が妥当であっても、その実現手段や態様が身体的、精神的な攻撃を伴う場合、威圧的な言動、土下座要求、継続的かつ執拗な言動、不退去などの拘束的言動、差別的言動、性的言動などを伴う場合は社会通念上の相当性を欠きカスハラに該当することになります。そしてそれらの言動により労働者の就業環境が看過できない程度に支障が出る場合と言われております。
カスハラと労災認定
労災とは、従業員の業務が原因、または通勤中に発生した私傷病を言います。具体的には労働者の死亡や怪我が会社の支配を受けている状態で発生し(業務遂行性)、さらにその死亡や怪我が業務を原因として起こったこと(業務起因性)が必要とされます。工場での作業中に機械に巻き込まれて負傷した場合などが典型例と言えます。それでは過労などによってうつ病などの精神疾患に罹患した場合はどうでしょうか。このような場合の労災認定については、精神疾患発症前の概ね6ヶ月以内の業務によるストレスを評価して判断されるとされております。発症前の労働時間やハラスメントの有無などどのようなストレスをどの程度受けていたかということです。そして厚労省の「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会」ではそれらの評価に際してカスハラや、新型コロナウイルスといった感染症に関するリスクが高い業務についても考慮すべき要件に加えることを提言しております。
カスハラに関する心理的負荷認定基準
厚労省では上記提言を受けて「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を改訂しております。その中でカスハラに関する心理的負荷の評価視点として、迷惑行為に至る経緯や状況等、迷惑行為の内容、程度、顧客等との職務上の関係等、反復・継続性の状況、その後の業務への支障等、会社の対応の有無および内容、改善の状況などが考慮されるとしております。そして心理的負荷の強度が中となる場合として、顧客等から治療を要さない程度の暴行、人格や人間性を否定するような言動、社会通念を逸脱する威圧等とされております。心理的負荷の強度が強となる場合としては、治療を要する暴行、反復・継続する暴行や人格や人間性を否定する言動、反復・継続する威圧等とされております。なお中・強に至らない場合は弱とされております。
コメント
本件で551蓬莱の男性社員は顧客から「お前なんて向いてないわ」「死ね」などの暴言を受けていたとされます。労働者の人格や人間性を否定する言動であることから、その頻度や継続性の高さによっては心理的負荷の度合いが強度と判断される可能性はあると考えられます。今後どの程度の頻度で暴言を受けていたのか、また時間外労働の長さなどが考慮されていくものと思われます。以上のように精神障害による労災認定は発症前概ね6ヶ月の心理的負荷の度合いを様々な要素から判断されることとなります。また今年9月からはカスハラについてもその判断基準に加えられております。従業員がカスハラを受けている、またはその疑いがある場合には、毅然とした対処と従業員のメンタルケアを十分に行える体制の構築が重要と言えるでしょう。
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