アルプスアルパインの元社員、転職先への営業秘密持ち出し容疑で逮捕
2023/12/11 コンプライアンス, 情報セキュリティ, 不正競争防止法, メーカー
はじめに
東証プライム上場中の大手電子部品メーカー、アルプスアルパイン株式会社の元社員の男が会社の営業秘密を不正に持ち出した疑いがあるとして、警視庁公安部は12月5日、男を不正競争防止法違反(営業秘密侵害)容疑で逮捕しました。
データ持ち出し後、男はアルプスアルパインを退職し、国内大手自動車メーカーに転職しているといいます。
事件の概要
逮捕されたのは、アルプスアルパインの元社員で中国籍の男です。アルプスアルパインの発表によりますと、元社員は、宮城県内の開発拠点に勤務していた2021年11月、会社が貸与したパソコンからアルプスアルパインのサーバーにアクセスし、車載電装部品の設計に関するデータファイルを貸与パソコンなどに保存。さらに元社員の個人のハードディスクにコピーを作成した疑いがもたれています。
持ち出したデータは、自動車の電子制御に関する先端技術とされており、犯行後に転職した国内の大手自動車メーカーで、同データを利用しようとした可能性があるとみられています。また、元社員は、これ以外にも複数の技術情報を持ち出した疑いがあるということです。
アルプスアルパインでは、重要なデータを保存したサーバーへのアクセス権の付与を、社内の一部の社員に限定しており、元社員もアクセス権を付与された社員の1人でした。
アルプスアルパイン側は、技術情報の不正取得を検知した後、すぐに調査を実施。調査の結果、元社員が故意に行った不正行為と判断し、警視庁に通報し、刑事告訴したといいます。
その後、警視庁は捜査を進め、12月5日、元社員を不正競争防止法違反(営業秘密侵害)容疑で逮捕しました。
アルプスアルパインでは、以前からISO27001 に準じた情報セキュリティシステム(ISMS)標準を整備し、情報管理体制を構築してきましたが、今回の事件を受けて、社員などに対するコンプライアンス教育のさらなる徹底を図り、体制強化に努めるとしています。
技術情報流出はなぜ起こる?
今回のアルプスアルパインのケースに限らず、これまでにも、会社が持つ技術情報などの流出事例が何度も確認されてきました。
(1)社内体制の未整備を原因とする流出
・会社の重要な技術情報が誰でも閲覧可能な場所に保管されており、これを従業員が流出させた事例。
・製造現場への持ち物持ち込みルールが定められておらず、従業員によるカメラ付き携帯の持ち込みが常態化していた中、製造ノウハウが流出した事例。
・海外企業が工場視察に来た際、見せるべきでない情報を見せてしまった結果、流出に繋がった事例。
(2)従業員の意図せぬ会話からの流出
・自社の技術者が技術指導を行う際、相手方企業からの質問に回答する中で、意図せず技術情報を漏洩してしまった事例。
・展示会で営業担当がプレゼンした際、意図せず技術情報を漏洩してしまった事例。
(3)海外拠点の従業員からの流出
・海外拠点の従業員が独立起業する際、技術情報を持ち出した事例。
・海外拠点の従業員が、より良い条件の会社に転職する際、技術情報を持ち出した事例。
(4)海外での改良発明による技術情報の流出
・海外企業への技術指導などでノウハウを提供し、これを元に相手方企業が改良を行ったケースで、相手方企業が、自社が提供したノウハウを含め、自らの発明として出願してしまった事例。
(5)取引先からの流出
商社や仲介人などの取引先が、情報の重要性についての認識を欠き、自社の技術情報を漏洩してしまった事例。
(6)法律の要求に伴う技術情報の開示
海外にて、現地の法令に基づく技術開示の要求があった際、必要な範囲を超えて技術情報を開示してしまった事例。
このように、技術情報の漏洩には様々なパターンがありますが、中でも、従業員や研修員などによる流出の事例が多いとされています。
持ち出し方法としても、ハードドライブへの保存をはじめ、図面の紙への印刷、個人メールアドレスへのデータ送信、製造現場でスマホのカメラを作動させての写真や動画の撮影など多岐にわたるといいます。
コメント
雇用の流動化・取引の国際化などと共に、改めてその重要性が浮き彫りとなっている営業秘密の管理問題。特に、異なるビジネス慣習・法規範をベースとしている海外取引先や外国籍社員との認識のすり合わせは慎重に行う必要があります。
物理的に情報流出をさせない社内体制・情報管理体制を整えると共に、営業秘密の取り扱いに関する社内規程の整備、取引先との契約書の精査を行うなど、あらゆる側面から漏れなく対策を打つことが重要になります。
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