ドン・キホーテと金商法違反の元社長の裁判、元社長に1億6700万円の賠償命令
2023/12/13 金融法務, 訴訟対応, 金融商品取引法, 小売
はじめに
有名ディスカウント店「ドン・キホーテ」などを運営する株式会社パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスが、金融商品取引法違反の罪で有罪が確定した元社長に対して損害賠償を求めていた裁判で、東京地方裁判所は12月7日、元社長に対し、約1億6700万円の支払いを命じました。元社長が会社側への違法行為の報告を怠ったことが、善管注意義務などに違反するということです。本判決に至るまでの経緯などを見ていきます。
TOB公表前の取引推奨で元社長の知人男性が多大な利益
2018年10月11日にユニー・ファミリーマートホールディングス(現ファミリーマート)が発表したドン・キホーテに対する株式公開買い付け(TOB)。ドン・キホーテ株の20.17%を上限に総額約2119億円で取得する一方で、傘下のスーパー「ユニー」をドン・キホーテの完全子会社にするというものでした。
元社長はこの情報を2018年8月段階で知ると、TOBの公表前だった9月上旬から下旬にかけて、知人男性に対し、複数回にわたりドン・キホーテホールディングス(現パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス)の株の買い付けを勧めたとされています。
知人男性は元社長の勧めに乗り、10月上旬までに計7万6500株を約4億3千万円で買い付けたうえで、これを公表後に売却、約6900万円の利益を得たとされています。
東京地検特捜部は、2020年12月3日、一連の行為が金融商品取引法が禁じる「取引推奨」にあたるとして、元社長を逮捕。
検察側は「経営トップの立場で規制に真っ向から反し、市場の公正性と健全性を大きく損なわせた」として懲役2年を求刑した一方、弁護側は「本人が利益を得たわけではなく、悪質性は低い」などとして執行猶予付き判決を求めました。
2021年4月27日、東京地方裁判所は、元社長に対し、懲役2年・執行猶予4年を言い渡しました。判決では、元社長が買い付け期限を示唆しながら株を勧めた行為について悪質性があると指摘。また、知人男性が約6900万円の利益を得ている点について「市場における公平性や、一般投資家の信頼を大きく害した」と述べました。その一方で、被告自身は経済的な利益を得ていない点などを考慮し、執行猶予付きの判決となりました。
会社から元社長に対する損害賠償請求訴訟
こうした中、パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスは善管注意義務違反などに基づく損害賠償を求め、元社長を提訴していました。
東京地方裁判所は12月7日の判決で、元社長には、取締役としての善管注意義務などに基づき、「自らの金商法違法行為を取締役会に報告すべき義務があった」と指摘。契約上、違反行為があった場合、会社は元社長に付与していた新株予約権を無償で取得できる権利を有していたにも関わらず、元社長の報告の懈怠により、その分の利益を逸したとして、約1億6700万円の損害賠償を命じています。
金商法が禁じる「取引推奨」とは?
会社関係者や証券会社の社員といった会社の内部情報を知りうる立場の者が、その情報に基づいて株式取引を行い、不正な利益を得る行為である“インサイダー取引”。2013年の金融商品取引法の改正により、「第三者に株式取引をさせて利益を得させる」、取引推奨行為も違法行為として禁じられることとなりました。
取引推奨行為を行うと、5年以下の懲役、500万円以下の罰金またはこれらの併科となります(金融商品取引法197条の2第14号、15号)。
また、課徴金納付命令の対象にもなっており、重要事実公表後2週間の最高値に買い付け数量を乗じた額から公表前の株価に買い付け数量を乗じた額を控除した額の納付が命じられます。さらに、別途金融庁による行政処分がなされるケースもあります。
コメント
有名企業の元社長自ら働いた金融商品取引法違反での逮捕に、当時は大きな関心が寄せられました。逮捕からおよそ3年が経過した現在、ようやく、一連の訴訟が終わる見通しです。
元社長は、刑事裁判で、「金融商品取引法改正で取引推奨行為が禁止されたことを知らなかった」と述べたとされています。
経営者の法の不知が原因で、会社への信頼を大きく下げる結果となった今回の事件。従業員のみならず、経営層に対しても、コンプライアンス教育を施す重要性を示す事案となったのではないでしょうか。
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