サマンサタバサが冬季賞与の不支給決定/賞与の法的性質について
2023/12/14 労務法務, 労働法全般
はじめに
サマンサタバサジャパンリミテッドは12日、2024年2月期連結業績予想を下方修正し、冬季賞与を不支給にすると発表しました。純損益が11億円の赤字とのことです。今回は賞与の法的性質について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、サマンサタバサジャパンリミテッドはサマンサタバサ事業とフィットネス事業の構造改革に取り組んでおり、製造販売コストの削減は順調に進んだものの、暖冬の影響で客数が予想を大幅に下回ったとされます。同社は2024年2月期の業績予想を下方修正し、売上高は前回予想の9.5%減となる236億4000万円、営業損益は10億5000万円の赤字、純利益は11億4000万円の赤字となる見通しとのことです。これに伴い冬季賞与は不支給とし、静岡県沼津市に位置する同社所有の土地と建物を国内法人に譲渡するとしております。譲渡益は8200万円で引き渡しは2024年2月21日とされます。
賞与(ボーナス)の法的性質
一般的にボーナスとも呼ばれる賞与は労働関係法令でどのような扱いなのでしょうか。労働基準法11条では、「この法律で賃金とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」としており、賞与も賃金の一種とされております。そして通達では、「賞与とは、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいう。定期的に支給され、かつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず、これを賞与とはみなさない。」とされております(昭和22年9月13日発基17号)。また健康保険法3条6項では、「いかなる名称であるかを問わず、労働者が、労働の対償として受けるすべてもののうち、三月を超える期間ごとに受けるものをいう」としております。つまり3ヶ月以上の間隔を置いて支給され、額が定まっていない労働の対価と言えます。
賞与の支給・不支給
上記のように賞与は労働関係法令では労働の対価という位置づけですが、賞与の支払いを義務付ける規定は存在しておりません。しかし労働契約や就業規則などで規定した場合はそれらに基づいて支払義務が生じると言えます。そのため賞与を不支給としても違法とはなりませんが、社内での規定の仕方によっては問題となりうると言われております。労働契約や就業規則で賞与の支給額や支給条件などを明示している場合は、従業員も賞与が支払われることを前提に生活設計を組み立てている場合が多く、このような場合での不支給は会社側の義務違反となる可能性が高くなります。また不支給とする際には従業員にその旨を通知するとする規定を置いている場合はそれに基づいて従業員への通知が必要となると言われております。
賞与に関する裁判例
賞与に関する裁判例として、就業規則で「賞与は決算毎の業績により各決算期につき1回支給する」と定めていたものの、支給日に在籍する者に対してのみ支給していた慣行があり、その後「支給日に在籍している者に対して」支給すると改訂し、それにより支給日前に退職して支給を受けられなかった元従業員から提訴された事例が挙げられます。この事例で裁判所は、同社に古くから支給日に在籍している者のみを対象とする慣行が存在し、それを明文化したものであり、内容も合理性を有するとして就業規則の改訂を合理的とし、それにより支給日前に退職した原告には受給権を有しないと判断しました(最小判昭和57年10月7日大和銀行事件)。また定年退職によって支給日に在職しなかった元従業員への不支給も適法とした裁判例も存在します(東京地裁平成8年10月29日)。ただし整理解雇などの会社都合による退職の場合に不支給とすることは問題となる可能性が高いと言われております。
コメント
本件でサマンサタバサリミテッドジャパンは業績不振を理由に冬季賞与の不支給を決定したとされます。同社の就業規則での規定は不明ですが、一定の時期に賞与を支給する旨の規定または同様の労働契約条項が無い場合は賞与の支給は原則として会社側の裁量となり適法と考えられます。以上のように労働関係法令では賞与(ボーナス)は賃金の一種という位置づけですが、どのような場合に支給すべきかなどの明文規定は置かれておりません。そのため労働契約や就業規則など社内での規定次第と言えます。しかし定め方や改訂の時期、労働者の退職の状況や経緯などによっては後々問題が生じることも多いと言えます。賞与に関する定めを置く場合、またはその規定の変更を検討する際にはこれらの点に留意しつつ、従業員に不測の不利益を与えないよう配慮することが重要と言えるでしょう。
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