佐賀玉屋が経営再建へ、事業譲渡の手続について
2023/12/21 戦略法務, 事業承継, 会社法
はじめに
佐賀県内唯一の百貨店「佐賀玉屋」(佐賀市)が京都の不動産会社に事業を譲渡することがわかりました。従業員の雇用は維持されるとのことです。今回は会社法の事業譲渡の手続について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、佐賀玉屋は1996年には約165億円の売上があったものの、2000年以降は佐賀市郊外への大型商業施設の進出が相次いだ影響で2015年には売上が約80億円とピーク時から半減したとされます。その後も売上の減少傾向は続き、さらにコロナ禍によって23年には約46億円に落ち込んだとのことです。また県と市による大規模な耐震診断で、震度6強以上の地震により倒壊する危険性も高いとされ、耐震工事も大きな負担となったとされます。大きな転換期を迎えた同社はメインバンクの佐賀銀行などの支援を受け、全事業を総合不動産会社「さくら」(京都市)に譲渡すると発表しました。老朽化した本館は建て直し、140人の従業員は雇用を維持されるとのことです。臨時株主総会は今月末を予定しております。
事業譲渡とは
事業譲渡とは、企業が保有する事業の全部または一部を譲渡するM&Aの手法の一つで、個々の財産だけでなく、経営の組織やノウハウ、取引先なども含めて有機的一体として移転させるというものです。この事業譲渡も細かく分ければ事業の全部の譲渡、事業の一部の譲渡、事業全部の賃貸、事業全部の経営の委任などに分かれます。事業譲渡には、会社の法人格が消滅せず継続して使用できる、取得したい資産を選択できる、負債承継のリスクが少ない、節税効果があるといったメリットがあると言われております。一方で譲渡範囲の決定が煩雑、競業避止義務が発生する、買い手側に資金調達の必要性がある、譲渡完了までの手間がかかるといったデメリットも指摘されております。
事業譲渡と他の組織再編との違い
事業譲渡は吸収合併や吸収分割とその性質において似ていると言えます。そのため株主総会での承認決議が原則として必要となる点は同様と言えます。しかし組織再編行為と異なる点も多く、まず吸収合併は包括承継であることから吸収合併消滅会社の事業だけでなく権利や義務もまとめて自動的に存続会社に引き継がれることとなりますが、事業譲渡では財産や従業員など個々に引き継ぎの手続が必要となってきます。また事業譲渡は他の組織再編行為と異なり、債権者異議手続や事前開示、事後開示の手続も不要となっております。組織再編行為には法令・定款違反がある場合には差止請求をすることができますが(会社法784条の2等)、事業譲渡にはこのような手続は用意されておらず、取締役の行為の差止請求で代用することとされます(360条)。このように事業譲渡は厳密には組織再編行為ではないことから様々は違いが存在しております。
事業譲渡の手続
事業譲渡の手続としては、上でも述べたように原則として株主総会の特別決議による承認が必要となります(467条1項、309条2項11号)。具体的に必要となる場合は、事業の全部または重要な一部の譲渡、事業全部の譲り受け、事業全部の賃貸や経営委任などの場合です。事業譲渡でも簡易・略式組織再編と同様に株主総会を省略できる場合があります。相手会社が自社の議決権の90%以上を保有する特別支配株主である場合や、事業譲渡の対価が純資産額の20%を超えない場合、または譲渡する事業が総資産額の20%を超えない場合には承認決議は不要です(468条2項)。そして反対株主への効力発生日の20日前までの通知も必要となります(469条1項)。この反対株主の株式買取請求は簡易事業譲渡の場合はできません。また上記のように債権者異議手続も不要です。
コメント
本件で業績悪化と店舗の老朽化を抱える佐賀玉屋は佐賀銀行などの支援のもと、不動産会社の「さくら」に事業の全部譲渡を行うと発表しました。これにより佐賀玉屋の屋号と従業員の雇用を維持したまま経営がさくらに移転することとなります。今月末の臨時株主総会で承認決議を得る予定とされております。以上のように事業譲渡というスキームを利用することによって、法人としての会社を維持したまま事業の全てを他の会社に承継させることができます。組織再編ではなく、あくまでも財産移転に過ぎないことから債権者異議手続や事前・事後開示などの手続も不要です。一方で個々の財産の移転手続が必要など煩雑な面も存在します。それぞれのスキームのメリット・デメリットを把握して適切な手法を選択していくことが重要と言えるでしょう。
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