公取委が「伊藤軒」に勧告、下請法の規制について
2023/12/27 契約法務, コンプライアンス, 下請法, 食料品メーカー
はじめに
京都市の菓子製造販売会社「伊藤軒」が菓子製造の委託先への代金を減額するなどしていたとして、公取委が22日、再発防止を求める勧告を出していたことがわかりました。減額分の代金はすでに支払われているとのことです。今回は下請法の規制を見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、伊藤軒は菓子製造の一部を委託している66の下請け業者に対し、「春夏協賛」「秋冬協賛」「支払手数料」「特別値引き」「クレーム処理代」といった名目で代金を減額したり、納入された製品を返品したりしていたとされます。公取委の調査を受け、同社は今年5月までの1年間の減額・返品分の計約903万円をすでに下請け業者に支払ったとのことです。公取委は下請法違反に当たるとして同社に再発防止を求める勧告を出しました。なお同社は1864年創業の老舗菓子メーカーで、京都市内の店舗のほかデパート等にも出店しており、資本金は2000万円とされております。
下請法の適用を受ける事業者
下請法が適用されるかどうかは、事業の内容と資本金規模の相関関係で決まるとされます(2条1項~8項)。まず(1)物品の製造・修理委託と政令で定める情報成果物・役務提供委託の場合は、親事業者側の資本金が3億円超の場合、下請事業者は資本金3億円以下、親事業者の資本金が1千万円~3億円以下の場合は、下請事業者の資本金が1千万円以下とされます。そして(2)情報成果物作成・役務提供委託の場合、親事業者側の資本金は5千万円超の場合、下請事業者の資本金は5千万円以下、親事業者の資本金が1千万円~5千万円以下の場合は、下請事業者の資本金が1千万円以下となっております。
親事業者の義務
下請法が適用される親事業者には様々な義務や禁止事項が定められております。まず親事業者の義務として、書面の交付義務(3条)、書類の作成・保存義務(5条)、下請け代金の支払期日を定める義務(2条の2)、遅延利息の支払い義務(4条の2)が定められております。下請事業者に製造委託等を行った場合は、給付内容、下請代金、支払期日、支払方法などを記載した書面を直ちに下請事業者に交付する必要があります。また同様の内容を記載・記録した書類または電磁的記録の作成と保存も必要です。下請代金の支払期日までに支払いができなかった場合は、遅延利息の支払いが義務付けられております。これらに違反した場合は罰則として50万円以下の罰金が科されます(10条)。
親事業者の禁止事項
下請法が適用される親事業者は、上記の義務に加え次のような禁止事項が定められております。(ア)受領拒否、(イ)下請代金の支払遅延、(ウ)下請代金の減額、(エ)返品、(オ)買いたたき、(カ)購入・利用強制、(キ)報復措置、(ク)有償支給原材料等の対価の早期決済、(ケ)割引困難な手形の交付、(コ)不当な経済上の利益の提供要請、(サ)不当な給付内容の変更・やり直しとなっております(4条各項)。これらの禁止事項には「下請事業者の責に帰すべき理由がないのに」という文言が盛り込まれており、下請事業者側に帰責性がある場合は減額や受領拒否、返品などは可能とされます。違反に対しては、受領や遅延利息の支払、不利益取り扱いの差止などを公取委が勧告することができます(7条)。
コメント
本件で菓子等の製造販売を行う伊藤軒は資本金が2000万円とされ、資本金が1000万円以下の事業者(個人事業者含む)と取引する際に下請法が適用となります。同社はこれに該当する66の下請事業者との取引に際して様々な協賛金名目で約837万円の減額をしていたとされます。また50の下請事業者に対して商品の返品を行い、代金相当額は約66万円とされます。公取委や同社に対し、違反行為の差止や社内体制の整備・周知、取引先への通知を命じる勧告を出しました。以上のように一定の資本金規模の事業者は、一定の資本金以下の事業者との取引に際して下請法が適用されます。また昨今フリーランス事業者数の増加とそれに伴うトラブルの増加に伴いフリーランス保護法も制定されております。下請法は資本金1000万円以上の事業者のみが対象となりますが、フリーランス保護法は全ての事業者が対象となります。施行は2024年秋頃と言われております。自社の取引先への対応を今一度見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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