JSRが今月24日と決定、会社法の基準日とは
2024/04/15 商事法務, 会社法, メーカー
はじめに
JSRは8日、6月上旬に開催を予定している臨時株主総会についての「基準日」を今月24日に設定したと発表しました。TOBに関連する総会とのことです。今回は会社法が規定する基準日について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、半導体など化学素材を扱う「JSR」(港区)は6月上旬に予定している臨時株主総会についての基準日を今月24日に設定したとされます。これは現在産業革新投機機構(JIC)が同社に対して進めているTOBの結果、同社の株式を90%以上取得できなかった場合に残存株式を取得するためのものとのことです。同社ではJICが90%以上取得できた場合は会社法179条1項の売渡請求を、90%に満たなかった場合は株式併合を利用する形でスクイーズアウトする予定となっており、その場合にはJIC側から臨時株主総会の招集が予定されております。今回の基準日の設定はそれに備えたものとされております。
基準日とは
会社法124条1項によりますと、「株式会社は、一定の日(以下この章において「基準日」という。)を定めて、基準日において株主名簿に記載され、又は記録されている株主(以下この条において「基準日株主」という。)をその権利を行使することができる者と定めることができる」とされております。株主総会での議決権の行使や剰余金配当を受ける株主をその基準日に株主名簿に記載されている株主とすることができる制度です。これにより誰を株主として扱えば良いのかが会社にとって明確になるというメリットがあります。日々多くの株主が入れ替わる上場企業などにとっとは、基準日に記載・記録されている株主にだけ招集通知を送付するなど株主として扱えば足りるということです。逆にあまり株主の入れ替わりが無い小規模な同族会社などにはそれほどのメリットは無いとも言えます。
基準日の定め方
基準日はあらかじめ定款で定めることもできますが、その都度定めることも可能です。定款で定める場合は基準日と基準日株主が行使できる権利の内容も定めておく必要があります(124条2項)。基準日は権利行使の日の3ヶ月以内の日であることを要します(同3項)。それ以上長くなると基準日以降の株式取得者に不利益となるからです。たとえば6月末に定時株主総会を予定している場合は3月末くらいに設定することが一般的です。そして定款で定めない場合は、基準日の2週間前までに基準日と基準日株主が行使できる権利の内容を公告する必要があります(同3項)。この公告方法としては官報に掲載する方法と時事日刊新聞に掲載する方法、そして電子公告があります。これはその会社がどの公告方法を採用しているかによります。定款に特に広告方法を定めていない場合は自動的に官報となります(939条4項)。
基準日公告例
基準日は株主総会での議決権行使や剰余金配当だけでなく、株式や新株予約権の有償・無償割当、株式分割など様々な場面で利用することができます。以下基準日公告例を挙げておきます。
基準日設定につき通知公告
当社は令和○年○月○日を基準日と定め、同日午後○時現在の株主名簿条の株主をもって、令和○年○月○日開催予定の株主総会における議決権を行使できる株主と定めましたので公告します。
令和○年○月○日
東京都渋谷区○-○ー○
株式会社東京法務
代表取締役 法務太郎
株式分割の場合は「当社は令和○年○月○日を基準日と定め、同日午後○時現在の株主名簿上の株主をもって、その所有する株式1株を10株とする株式分割により株式の割当を受ける株主と定めましたので公告します。」となります。
コメント
本件でJSRはJICによるTOBで90%以上の株式を取得できなかった場合は株式併合によって残存株式を取得する予定となっており、それに必要な臨時株主総会に備えて基準日を定めました。今後それらの手続きを経て上場廃止となるものと予想されます。以上のように会社法では一定の日の株主名簿上の株主を株主として扱うことができる制度が用意されております。これにより頻繁に株主が入れ替わる公開会社での事務処理上の便宜が図られております。また議決権に関しては、基準日後に株主になった者の行使を会社の裁量で認めることが可能です(124条4項)。ただしそれにより基準日株主の権利を害することはできないとされます。また基準日制度を利用するか否かも会社の任意となっております。株式分割だけは強制となります。定時総会までに会社法上の制度を確認しなおしておくことが重要と言えるでしょう。
関連コンテンツ
新着情報
- セミナー
- 大橋 乃梨子 弁護士(弁護士法人GVA法律事務所 /東京弁護士会所属)
- 【オンライン】事業譲渡における法務DDの着目ポイント ~取引契約の規定内容を中心に~
- 終了
- 2024/11/29
- 12:30~13:00
- 解説動画
- 浅田 一樹弁護士
- 【無料】国際契約における準拠法と紛争解決条項
- 終了
- 視聴時間1時間
- まとめ
- 会社の資金調達方法とその手続き まとめ2024.3.25
- 企業が事業活動を行う上で資金が必要となってきます。このような場合、企業はどのようにして資金調達...
- 業務効率化
- Araxis Merge 資料請求ページ
- ニュース
- 「タイヤ館」でパワハラか、新入社員が自殺で遺族提訴2025.1.7
- NEW
- カー用品店「タイヤ館」の新入社員だった24歳の男性が3年前に自殺しました。遺族は、2024年1...
- 業務効率化
- ContractS CLM公式資料ダウンロード
- 弁護士
- 福丸 智温弁護士
- 弁護士法人かなめ
- 〒530-0047
大阪府大阪市北区西天満4丁目1−15 西天満内藤ビル 602号
- 弁護士
- 松田 康隆弁護士
- ロジットパートナーズ法律会計事務所
- 〒141-0031
東京都品川区西五反田1-26-2五反田サンハイツビル2階
- 解説動画
- 江嵜 宗利弁護士
- 【無料】新たなステージに入ったNFTビジネス ~Web3.0の最新動向と法的論点の解説~
- 終了
- 視聴時間1時間15分