男性ばかりの総合職限定での社宅制度は“間接差別”、 AGC子会社に賠償命令
2024/05/17 労務法務, コンプライアンス, 労働法全般, メーカー
はじめに
「男性が大部分を占める総合職だけに家賃補助をするのは男女差別だ」として、国内ガラス最大手AGCの子会社で一般職として勤務する女性が会社に損害賠償などを求めた訴訟で、東京地方裁判所は、5月13日、男女雇用機会均等法が禁じる「間接差別」を認定し、会社に約378万円の賠償を命じる判決を下しました。
事実上男性の総合職だけ家賃補助は間接差別
報道などによりますと、訴えを起こしたのはガラス大手AGC株式会社の子会社AGCグリーンテック株式会社(東京)に2008年に一般職として入社した女性(44)です。
AGCグリーンテックには、いわゆる借り上げ社宅があり、これを賃貸する社員に対し、賃料の8割を補助する社宅制度がありました。ただし、その対象は総合職に限定されていたということです。
AGCグリーンテックにおける総合職には、1999年から2020年までの期間で、合わせて34人が在籍しましたが、そのうち女性は1人のみだったといいます。
一方で、一般職には住宅手当が支給されていたといいますが、その額は3,000円ほどで、総合職に対する賃料補助額との間に20倍ほどの開きがあったとのことです。また、一般職にはこれまで計7人が在籍し、このうち6人が女性でした。
こうした実態を踏まえ、原告女性は、総合職のみ厚遇されているのは事実上の性別による差別に当たると主張。損害賠償などを求めて、東京地方裁判所に提訴しました。
一方、会社側は、総合職にのみ社宅制度が適用される理由として、「転勤のある営業職(総合職)の採用競争における優位性の確保」を挙げていました。
東京地方裁判所は5月13日、転勤の有無にかかわらず、社宅制度が総合職に適用されていた実態を指摘。補助制度の利用を総合職に限ることは「事実上男性にのみ適用される福利厚生で、女性に相当程度の不利益を与えていることに合理的理由はない」と認定しました。
さらに、こうした運用を続けることは男女雇用機会均等法の「間接差別」に該当するとして、会社に対し、家賃補助の差額や、原告女性に精神的苦痛が生じたことでの慰謝料など、約378万円の支払いを命じました。
原告側の代理人弁護士によると、この裁判は、“間接差別”を認定した初めての司法判断だといいます。
なお、原告女性は一般職の男性1人との間にも、性別を理由とした不当な給与差があると訴えていましたが、裁判所は、「性別を理由に不利に扱われている事情はうかがわれない」として、この請求を棄却しています。
間接差別とは
上述のように、今回の判決は、“間接差別”を認定した初の判決といわれています。
「間接差別」は、男女雇用機会均等法第7条で禁止されている差別類型で、一見すると①性別以外の要件がありつつも、実際には②片方の性別に不利益があり、かつ、その要件に③合理的な理由がない場合に認められます。
具体的には、厚生労働省令で定める3つの措置、すなわち、
(1)労働者の募集又は採用に当たって、労働者の身長、体重又は体力を要件とするもの
(2)コース別雇用管理における総合職の労働者の募集又は採用に当たって、転居を伴う転勤に応じることができることを要件とすること
(3)労働者の昇進に当たり、転勤の経験があることを要件とすること
について、合理的な理由がないままにこれを行った場合に、男女雇用機会均等法第7条違反となります。
その一方で、この3つの措置以外の措置については、直接、男女雇用機会均等法第7条違反とはならないものの、違法行為として不法行為(民法第790条)に基づく損害賠償請求の対象となったり、公序良俗違反(民法第90条)として無効となる可能性があるとされています。
判決の判断枠組み
判決では、まず前提として、「労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とする社宅制度」についても、これが間接差別に該当する場合には、公序良俗違反や不法行為の成否の問題となるとしました。
そのうえで、この制度(措置)の対象となる、
・男女の比率
・当該措置の具体的な内容
・当該措置の業務遂行上の必要性、雇用管理上の必要性
その他一切の事情を考慮し、(1)片方の性別に相当程度の不利益を与えるものか否か、(2)当該措置に対する合理的理由の有無といった観点から、AGCグリーンテックの社宅制度が“間接差別”に該当するか否かを男女雇用機会均等法の趣旨に照らして検討し、公序良俗違反や不法行為の成否の問題を検討するとの判断枠組みを示しました。
これを前提に、
①社宅制度の適用に関し男性の割合が圧倒的に高いこと
②社宅制度の対象者と非対象者との間で経済的恩恵の格差がかなり大きいこと
③これまで、社宅制度が、転勤の事実やその現実的可能性の有無を問わず適用が認められてきたこと
などの事実から、AGCグリーンテックの社宅制度が女性に相当程度の不利益を与えるもので、当該措置に対する合理的理由がないと判断。“間接差別”に該当すると判示しました。
コメント
男女雇用機会均等法では、性別を理由とする差別や、セクハラや、妊婦へのマタハラを防止するためのルールが定められていて、違反した事業主には行政処分や過料を命じられることがあります。
また、今回のように、一見、性別を理由とする差別でない場合でも、実態として性別による差別となっている場合には、“間接差別”として、制度を根拠づける社内規程の無効や不法行為に基づく損害賠償が認められる可能性があります。
社内制度の形式的要件のみならず、運用実態まで見ながら、差別的な制度が社内に存在していないか、精査する必要があります。
【参考リンク】
AGCグリーンテック男女差別訴訟 勝訴判決 ~間接差別を認めた画期的判決~(東京法律事務所)
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