阪急阪神HD株主総会で角会長の賛成比率が57.45%に、決議要件について
2024/06/19 商事法務, 総会対応, 会社法
はじめに
阪急阪神ホールディングスが14日開催した定時株主総会での取締役選任議案で角和夫会長の賛成比率が57.45%であったことがわかりました。宝塚歌劇団の俳優急死問題が影響したとのことです。今回は株主総会の決議要件について見直していきます。
事案の概要
宝塚歌劇団を運営する阪急電鉄の親会社である阪急阪神HDの定時株主総会が14日、大阪市内で開催され、2035人の株主が参加しました。昨年9月に宙組の俳優が転落死して以来初の株主総会とされます。この転落死事件を巡っては、上級生によるパワハラなどが一因と見られており社会問題に発展しました。歌劇団は今月20日に宙組の公演を再開するとしており、株主らはこれらの問題を厳しく追求する質問を投げかけたとのことです。また角会長の引責辞任を求める声も多く、取締役選任議案では同会長の賛成比率は57.45%に落ち込んだとされます。なお他の取締役については80~90%台の賛成比率で可決されたとのことです。
株主総会決議の種類
株主総会の決議には、決議事項の重要度に応じて、普通決議、特別決議、特殊決議の3つの種類があります。特殊決議はさらに極限られた事項のみを対象とする特別特殊決議というものも存在します。役員の選解任、剰余金配当などは普通決議、定款変更や株式併合などは特別決議、株式に譲渡制限をかける旨の定款変更は特殊決議といった具合に、株主や会社への影響が大きい決議事項ほど決議要件も厳しくなっております。なお、厳密にはこれらよりも更に厳しい、株主全員の同意を要する場合も存在します。これが必要な場合とは、役員等の責任の免除、全部の株式に取得条項を付ける旨の定款変更、株主総会の招集手続きの省略、株式会社から持分会社への組織変更などとなっております。以下具体的に見ていきます。
普通決議
普通決議は、行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数の賛成を要する決議方法です(会社法309条1項)。つまり定足数も表決数も過半数ということです。たとえば議決権の数が10000個の会社の場合、定足数は5001個、その5001個分の議決権の株主が出席した場合は、その過半数の2501個の賛成で可決するということです。この定足数については定款で排除することも可能ですが、役員の選解任については定足数を3分の1未満にすることはできません(341条)。普通決議の対象となっている決議事項は扱いが特殊な役員の選解任を除けば、会計監査人の選解任(329条1項、339条1項)、役員報酬(361条1項、379条1項)、剰余金配当(454条1項)、自己株式の取得(156条1項)、定時総会での欠損の範囲内での資本金減少(447条1項)、準備金の減少(448条1項)等となっております。
特別決議
特別決議は行使できる議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となります(309条2項)。定足数に関しては普通決議と同様ですが、表決数が普通決議の過半数よりも強化されており、3分の2以上の賛成が求められます。なお普通決議は定足数を定款で排除することが可能でしたが、特別決議は3分の1までしか減らすことができません。特別決議を要する決議事項については、定款変更や株式併合(180条2項)、組織再編が典型例と言えますが、それ以外でも譲渡制限株式の譲渡承認請求に対する買い取り決定(140条2項)、合意による自己株式取得(156条1項)、全部取得条項付種類株式の取得(171条)、非公開会社での募集株式発行等(199条2項)、役員等の賠償責任の一部免除(425条1項)などが挙げられます。なお役員の選解任は原則として普通決議ですが、累積投票で選任された取締役や監査役の解任は特別決議を要します。
特殊決議
特殊決議は、議決権を行使できる株主の半数以上であって、当該株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要となります(309条3項)。特殊決議はこれまでの普通決議や特別決議と異なり、定足数というものがありません。「議決権を行使できる株主の半数以上」とは議決権は関係なく、単に株主1人1人の頭数の半数以上ということです。そして全議決権の3分の2以上の賛成が要求されます。つまりほとんどの議決権を独占している大株主が賛成していても、1株しか持っていない零細株主数人が反対したら可決できないということも有りえます。特殊決議が必要な決議事項としては、全部の株式に譲渡制限をかける定款変更や、吸収合併などの組織再編で消滅会社等の株主が対価として譲渡制限株式を受ける場合などとなっております(783条1項、804条1項)。
コメント
本件では阪急阪神HDの株主総会での取締役選任議案で、角会長の賛成比率が約57%に落ち込んだというものでした。これは昨年の宝塚歌劇団での俳優急死問題を巡って株主から批判が集中したことが要因とされております。上記のように役員の選解任については株主総会の普通決議が必要です。出席株主の議決権の過半数を下回った場合は否決されることとなります。定足数などが不足していたのにそれを看過して決議がなされた場合は株主総会決議取消訴訟の対象となります。どのような決議事項にはどのような決議が必要かを確認しつつ、自社の株主総会で定足数や表決数を満たしているかを慎重に確認していくことが重要と言えるでしょう。
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