騒音で金属回収会社に操業差し止め命令 ―津地方裁判所
2024/06/25 コンプライアンス, 行政対応, 訴訟対応, 民事訴訟法, メーカー, 食料品メーカー, 建設
はじめに
三重県の一家が近隣にある金属回収会社に対して、「騒音が大きすぎる」として操業差し止めなどを求めていた訴訟の判決が、6月6日に下されました。
騒音で家族が体調不良に
今回の訴訟の原告となったのは、三重県松阪市に住む60代の夫婦と子ども2人の家族です。原告らは、近所にある金属回収会社、三和総業株式会社が受忍限度を超えた騒音を発生させているとして操業の差し止めと損害賠償などを求めて、津地方裁判所に提訴していました。
裁判所は、「65デシベルを上回る騒音は被告の作業が原因」と認定したうえで、家族が騒音によって体調を崩し、治療を続けていることから「被害の程度は大きい」と判断。騒音は「受忍すべき限度を超えている」として、三和総業に対し、65デシベルを一定時間超える騒音を発生させる操業の差し止めと、679万円の損害賠償を命じました。
騒音規制法について
環境省によりますと、騒音に係る苦情の件数は令和4年度には 20,436件でした。前年度に比べると736件増加したということです。
苦情の内訳は、
①建設作業 7,736件(37.9%)
②工場・事業場 5,236件(25.6%)
③営業 1,946件(9.5%)
などとなっていて、建設作業と工場・事業場の上位2つだけで、苦情理由の半数以上を占めていることがわかります。
建設作業や工場稼働の性質上、一定の音の発生は避けられないため、近隣住民に対し、一定の範囲での受忍が求められているところがあります。
その一方で、事業者の立場では、近隣住民などの生活を保護するため、騒音規制法により定められた規制基準を守った操業が求められます。
騒音規制法では、都道府県知事や市長などが、騒音規制を行う地域を「指定地域」として指定し、その指定地域にある建設作業や工場によって規制基準が定められています。
指定地域内で規制の対象となる場所は「特定施設」と呼ばれていて、
・金属加工機械
・空気圧縮機および送風機
・織機
・建設用資材製造機械
・穀物用製粉機
・印刷機械
などの11設備において、一定の音の大きさを越えないよう規制されています。
例えば東京都の「工業地域」にある工場の場合、騒音の規制基準は以下のようになっています。
・午前6時〜午前8時:60デシベル
・午前8時〜午後8時:70デシベル
・午後8時〜午後11時:60デシベル
・午後11時〜翌日午前6時まで:55デシベル
ちなみに、午前8時から午後8時までの時間帯に設定されている「70デシベル」とは、近くで聞くセミの鳴き声や、掃除機の音などと同等程度で、大声で話せば 1m以内の人と会話ができる程度の音の大きさとされています。
騒音規制法を遵守していても、損害賠償を命じられるケースも
このように、騒音については騒音規制法で厳格に規制されていますが、仮に同法の規制基準を遵守していても、騒音が原因で近隣に被害が生じた場合、損害賠償を命じられる可能性があるため、注意が必要です。
例えば、仙台高裁平成23年2月10日判決では、騒音規制法遵守下で行った工事の騒音による被害について、工事を行なった事業者と工事を発注した自治体に損害賠償を命じています。
【仙台高裁平成 23年 2月10日判決】
いわき市の建設会社・A社が、福島県からの受注で水路橋敷設替工事を施工したところ、工事の騒音などにより、酪農家X氏が飼育していた牛200頭のうち89頭が死亡・衰弱したほか、搾乳の量が減るなどの被害が発生した事案。
X氏は、A社および福島県(発注者)に対して損害賠償を求める訴訟を提起しました。
工事は騒音規制法の規制基準に則って行われていましたが、原告X氏は、
・騒音規制法上の規制基準が“人”の生活環境や健康の観点から設定されていること
・本件では、“人”ではなく、“牛”に対する騒音被害が問題となっているため、被告らが騒音規制法上の規制基準を遵守していた事実を重視すべきではないこと
などを主張。
その結果、一審の福島地方裁判所いわき支部、二審の仙台高等裁判所ともにA社と福島県のX氏に対する損害賠償責任を認めました。
裁判所は、本件工事の騒音の違法性を判断するうえで、突発的・衝撃的な機械音に対し、驚いて暴走等の異常行動を起こしやすい牛の一般的な性質にも着目して検討しなければならないと判示。
そのうえで、一定の騒音レベルの工事を約2年間も継続実施し、この間に多数の牛が死亡する等の大きな被害が生じている以上、本件工事は、Xに対する関係で、受忍限度を超えた騒音を発生させた違法なものであるとしました。
コメント
津地方裁判所の判決でも見られるように、騒音などに関する裁判では、問題となった騒音が「受忍限度を超えたものか否か」が大きな争点となります。
しかし、「受忍限度を超えているかどうか」には明確な判断基準がなく、検証なども難しいとされています。
そのため、裁判では、個々の事案ごとに被害状況、事業者側の事業の公共性、継続性、被害の防止措置などを総合的にみて、騒音などが一般社会生活上、受忍すべき程度を超えるといえるかどうかを判断しています。
建設業や工場を稼働させての製造業など、騒音の発生が予想される事業を行う場合には、想定される音の大きさなどを緻密に計算し、付近にどのような建物や施設があるのかを丁寧に把握したうえで、騒音対策を施す必要があります。
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