香川県の運送会社を書類送検、労災発生時の手続きについて
2024/07/03 労務法務, 危機管理, 労働法全般, 物流
はじめに
従業員が就労中に負傷して休業したにもかかわらず、労基署に報告書を提出しなかったとして、労働基準監督署が香川県の運送会社を書類送検していたことがわかりました。従業員は健康保険で治療したとのことです。今回は労災発生時の手続きについて見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、香川県に本社を置く「四国物流サービス」の徳島営業所で2022年9月、50代の女性運転手が車両を清掃作業中に脚立から落下して左腕に怪我をする労災事故が発生したとされます。これにより女性運転手は長期にわたって休業しましたが、徳島営業所長は提出が義務付けられている報告書を労基署に提出しなかったとのことです。そのため女性運転手は労災保険の適用を受けることができず、自身の健康保険を使って治療していたとされます。女性運亭主は鳴門労基署に通報しておりました。
労災と労災保険給付
会社に雇用されている労働者に労働災害が発生した場合、労災保険が支給されることとなります。労働災害には業務災害と通勤災害があり、業務上の負傷、疾病、障害、死亡を業務災害と言います。業務災害に当たるかは、会社の支配・管理下での災害であったか(業務遂行性)、そして労務と災害との間に因果関係があるか(業務起因性)が基準となります。通勤災害は通勤中に発生した負傷や疾病で、通勤とは、住居と就業場所の往復、単身赴任先住居と帰省先住居との間の移動、就業場所から他の就業場所への移動を合理的な経路および方法で行うことを言うとされます。通勤の途中で逸脱・中断があっても、それが日常必要な最小限度の範囲であれば再び通勤に復帰できるとされます。労災保険給付には、療養補償給付、休業補償給付、障害補償給付、遺族補償給付があります。
労災が発生した場合の手続き
労災が発生した場合の大まかな流れとしては、(1)従業員から会社への報告、(2)会社が労基署に「労働者死傷病報告」を提出、(3)労災保険給付の請求書を労基署長に提出、(4)労基署長による調査、(5)給付決定または不支給決定となります。労災保険給付の請求書は労基署長に会社を通じて提出することも、労災が生じた従業員が直接提出することも可能です。療養補償給付については、労災指定病院で受診した場合は病院へ労災請求書を提出すればその場で治療費を支払う必要はなく、病院が労基署長に請求することとなります。それ以外の病院で受診した場合は、一旦従業員が治療費を全額建て替えておき、その後労基署長に請求書と領収書を提出して治療費分の給付を受けることとなります。この際自己の健康保険を使用することはできません。
労働者死傷病報告
労働者に労災が発生し死亡または休業したとき、就業中に負傷、窒息、急性中毒により死亡または休業したとき、労働者が事業場内またはその附属建物内で負傷、窒息、急性中毒により死亡または休業したときは、事業者は遅滞なく「労働者死傷病報告」を労働基準監督署長に提出しなければならないとされます(労働安全衛生法100条、同規則97条)。この労働者死傷病報告には様式があり、休業4日以上の場合と休業4日未満で分かれております。様式は厚労省のHPからDLすることができます。この労働者死傷病報告を提出せず、または虚偽の報告をした場合はいわゆる「労災隠し」として50万円以下の罰金が課されることとなります(120条3号)。
コメント
本件で四国物流サービスは、従業員が仕事中に負傷し休業したにもかかわらず労働者死傷病報告を労基署長に提出していなかったとされます。上でも述べたように従業員に労災が発生した場合だけでなく、事業場やその附属建物などで負傷や中毒が発生した場合も労働者死傷病報告の提出が義務付けられております。また労災の治療に労働者自身の健康保険を使用することはできません。これらに違反した場合はいわゆる労災隠しとなり罰則の適用があります。どのような場合に報告義務があるか、また労災の際にはどのような手続きが必要かを今一度確認し事業場内で周知しておくことが重要と言えるでしょう。
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