京都地裁が「嵐山通船」前社長に賠償命令、会社法の報酬規制について
2024/07/17 商事法務, コンプライアンス, 会社法
はじめに
「鵜飼」を手掛ける「嵐山通船」(京都市右京区)が、前社長が不当に増額した役員報酬を得ていたとして増額分の変換などを求めていた訴訟で京都地裁は9日、請求通り892万円の支払いを命じていたことがわかりました。刑事告訴も予定されているとのことです。今回は会社法の役員報酬規制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、嵐山通船の前社長は2017年~20年に、1981年の株主総会決議で承認された年600万円を超える額の報酬を受け取っていたとされ、原告である同社は前社長に対し超過分の計892万円の返還を求め提訴しました。これに対し前社長側は報酬を増額するとの株主総会決議が81年以降にあったと主張していたとのことです。また同社では、前社長が鵜小屋建設をめぐり株主に虚偽の説明をした上で業者と建設工事契約を締結し、同社に約8000万円の損害を負わせたとして特別背任の疑いで刑事告訴する方針としております。
役員等の報酬規制
会社法361条1項によりますと、取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益については、定款に定めていないときは株主総会の決議によって定めるとしております。取締役等の役員の報酬の決定については、本来は業務執行の範囲に属する事項と言えます。しかし取締役が自らの報酬を自由に決められるとすれば、不当に高額な報酬を設定してしまう危険性があります。そこで会社法では取締役等の役員の報酬は定款または株主総会で定めることにより、株主によるコントロールを及ぼそうとしております。なお判例では、職務執行の対価と認められる限り「報酬等」に該当するとして、退職慰労金も対象とされております(最判昭和39年12月11日)。職務執行の対価として支給される趣旨を含む場合は退職慰労年金も同様とされております(最判平成22年3月16日)。
報酬等に関する決議事項
役員等の報酬に関して定款または株主総会で決定すべき事項として361条は次のように挙げております。(1)報酬等のうち額が確定しているものについてはその額、(2)額が確定していないものについては具体的な算定方法、(3)報酬が株式の場合は株式の数の上限等、(4)報酬が新株予約権(ストックオプション)である場合はその数の上限等、(5)株式や新株予約権の払込に当てるための金銭を報酬として支給する場合はその上限等、(6)報酬が金銭等でない場合は具体的なその内容となっております。一度定まったこれらの事項について、その後変更を加える議案を株主総会に提出する場合は、取締役はその変更を相当とする理由を説明する必要があります(同4項)。また公開大会社である監査役会設置会社、または監査等委員会設置会社の取締役会は個人別報酬の内容の決定方針を決定しなければならないとされます(同7項)。なおここに言う監査役会設置会社は金商法によって有価証券報告書の提出が義務付けられている会社、つまり上場会社等ということになります。
取締役以外の報酬規制
会社法では取締役以外の役員等についても報酬規制を置いております。まず監査役と会計参与についても取締役と同様に報酬は定款または株主総会決議によることが求められております(387条1項、379条1項)。ただし監査役と会計参与は株主総会で報酬に関して意見を述べることができるとされます(387条3項、379条3項)。会計監査人に関しては報酬は取締役が決定することができます(399条1項)。ただしその場合、監査役の同意を得る必要があります。これは会計監査人の独立性を確保するためとされます。監査等委員である取締役は、通常の取締役と同様に定款または株主総会により定められますが、通常の取締役とは区別して定める必要があります(361条2項)。指名委員会等設置会社の場合は、上記の規制にかかわらず、報酬委員会が役員等の個人別報酬を決定することとなります(404条3項)。
コメント
本件で嵐山通船の前社長は1981年の株主総会決議で決定された年600万円という報酬額を超えて報酬を受け取っていたとされます。前社長側は増額する旨の株主総会決議が81年以降にあったと反論していたとされますが、京都地裁はそのような決議があったと認定できないとし、決議のない超過部分の返還を命じました。以上のように会社法では役員等の報酬について詳細な規定を置いております。また令和元年改正から上場会社等では個人別報酬等の決定方針を定めることが求められております。これは役員報酬に関して相次いだ不祥事等を受け、報酬に関してより透明性を確保することが目的となっております。役員等それぞれについてどのような規制が置かれているかを確認し、周知していくことが重要と言えるでしょう。
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