紅麹サプリ健康被害で初の提訴、製造物責任法の規制について
2024/09/09 コンプライアンス, 訴訟対応, 製造物責任法, メーカー
はじめに
紅麹サプリを摂取して健康被害を発症したとして、大阪府内の男性が小林製薬に損害賠償を求め提訴していたことがわかりました。紅麹サプリを巡る訴訟はこれが初とのことです。今回は製造物責任法の規制について見直していきます。
事案の概要
報道などによりますと、原告の男性は今年1月、小林製薬の「紅麹コレステヘルプ」20日分をインターネットで6つ注文し摂取を開始したとされます。しかしその後、同サプリを摂取した人に健康被害が相次いでいることを知り、5月に病院で検査を受けたところ、数ヶ月前の健康診断では異常がなかった腎臓の数値に異常が見られ、薬剤性急性腎障害などと診断されたとのことです。男性は同サプリに製造物責任法上の欠陥があったとして小林製薬に約500万円の損害賠償を求め大阪地裁に提訴しました。男性は被害の発表が早ければ買うことはなかったとし、同社の対応の遅れに強い憤りを感じているとのことです。
製造物責任法(PL法)の趣旨
製造物責任法(PL法}は、製造物の欠陥が原因で生命・身体、または財産に損害を被った場合に、被害者が製造業者等に対して損害賠償を求めることができることを規定した法律とされます。本来民法709条による不法行為責任を追求する場合、被害者側が加害者の故意または過失を立証することとなりますが、この法律では製造物責任については製造物の欠陥の立証でよいとされます。そういった意味でこれは民法の特則に位置づけられております。近年、製品による利便性が向上する一方で製品の欠陥による被害もそれに比例して増加しており、被害者が製造者の故意や過失を立証することは非常に困難とされてきました。そこでこのようなPL法が1995年に施行されております。以下具体的に要件を見ていきます。
製造物責任法の適用主体
PL法2条3項によりますと、この法律が適用される「製造業者等」とは、(1)製造物を業として製造、加工または輸入した者(同1号)、(2)自ら製造物の製造業者として当該製造物にその氏名、商号、商標その他の表示をした者または当該製造物にその製造業者と誤認させるような氏名等を表示した者(同2号)、(3)その他当該製造物の製造、加工、輸入または販売に係る形態その他の事業からみて、当該製造物にその実質的な製造業者と認めることができる氏名等の表示をした者とされております。(1)は製造業者で(2)は氏名等表示業者、(3)は実質的な製造業者と呼ばれます。氏名等表示業者は製品にブランド名を表示した業者などです。そして実質的な製造業者はOEM製品などで販売者として表示され、実際には製造にも関与した業者などとされております。
その他の要件
PL法の対象となる「製造物」とは、「製造又は加工された動産」を言うとされております(2条1項)。人為的な操作や処理が加えられ、引き渡された動産を対象としており、不動産や電気、ソフトウェア、未加工農林畜水産物などは製造物に該当しないとされております。「製造」とは一般に製品の設計、加工、検査、表示を含む一連の行為として位置づけられ、原材料に手を加えて新たな物品を作り出すこととされます。「加工」とは、動産を材料としてこれに工作を加え、その本質は保持させつつ新しい属性を付加し、価値を加えることとされております。そして「欠陥」とは、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることを言うとされます(2条2項)。そしてこの欠陥には一般に(1)製造上の欠陥、(2)設計上の欠陥、(3)警告上の欠陥の3類型があると言われます。製造上の欠陥は製造や管理工程に問題があり、仕様通りに製造されておらず、安全性に問題がある場合を言います。設計上の欠陥は設計自体に問題が存在している場合で、警告上の欠陥は説明書やパッケージの使用上の注意や警告が不十分な場合を言うとされます。
免責事由
製造業者等は欠陥のある製造物を引き渡したことにより、他人の生命、身体、財産を侵害した場合は、これによって生じた損賠を賠償する責任を負います(3条)。しかし製造業者側は一定の場合、免責されることがあります(4条)。まず、製造物を引き渡した時点における科学・技術知識の水準によっては、欠陥があることを認識することが不可能であった場合(同1号、開発危険の抗弁)、そして部品・原材料の欠陥が専ら当該部品・原材料を組み込んだ他の製造物の製造業者が行った設計に関する指示のみに起因し、欠陥の発生について過失がなかった場合(同2号、部品・原材料製造業者の抗弁)に免責されることとなっております。
コメント
厚労省によりますと、小林製薬の紅麹を使ったサプリメントによる健康被害については、同社が因果関係などを調査している者も含め、先月の時点で計81人とされております。健康被害の原因はカビ毒の一種であるシトリニンが腎臓や肝臓などに影響を及ぼすこととも言われており、サプリメントに通常有すべき安全性が欠けていたと判断される可能性は高いと考えられます。同社は訴訟の提起を問わず、被害者には誠実かつ適切な補償を行っていくとしております。以上のように製造物責任法では製造者の故意や過失とは無関係に、製品に欠陥があることが立証されれば賠償責任が発生します。逆に製品を引き渡した時点での科学・技術に関する知見によっては欠陥を認識できなかったと証明できれば免責されます。製造業を営んでいる場合は、これらを踏まえて社内で危機管理体制を構築し、周知していくことが重要と言えるでしょう。
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