NPO法人が「サカイクリニック62」を提訴、医療広告規制について
2024/09/12 コンプライアンス, 広告法務, 景品表示法, 医療・医薬品
はじめに
NPO法人「消費者機構日本」は自由診療を行う医療法人社団「サカイクリニック62」が自社サイトで景表法に違反する表現があるとして、差止を求め東京地裁に提訴しました。客観的・医学的なエビデンスが無いとのことです。今回は医療広告規制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、サカイクリニック62は、同クリニックが提供する一部の治療について、客観的・医学的エビデンスが無いのに、「アンチエイジング」「睡眠の質改善」などの効果があるとする説明を自社サイトに掲載していたとされます。問題となった治療法は、「マクロファージ活性化療法」「テロメア注射・点滴」「腸内フローラ移植」「エクソソーム点滴療法」「マイクロウェーブによる温熱療法」「高濃度水素吸入療法」「自己血サイトカインリッチ血清療法」などとのことです。これに対しNPO法人「消費者機構日本」は、治療法に関する効能が景表法上の優良誤認表示に当たるとして差止を求め東京地裁に提訴しました。医療広告に関して提訴等がなされるのは初とのことです。
医療広告に関する規制
一般に健康食品やサプリメント等に関して、誇大広告や客観的根拠の無い広告がなされた場合、景表法に抵触する可能性があることはよく知られております。そして医療行為や治療行為に関する広告に関してもそれは同様です。このような医療広告の場合、景表法による規制だけでなく「医療法」という法律にも規制が置かれております。医療は人の生命や身体に関わるサービスであり、不当な広告により不適当なサービスを受けた場合、他の分野に比べて著しく問題が大きいことから、このように特に重点的に規制がなされていると言えます。医療法の具体的な規制としては、医療・診療に関して虚偽の広告、また他の医療機関と比較して優良である旨の広告、誇大広告、客観的事実であることを証明することができない内容の広告、公序良俗に反する内容の広告が禁止されております(6条の5第1項~4項、医療法施行規則)。違反した場合は6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金となっております(73条1号)。
景表法による規制
ここで景表法による表示規制についても簡単に触れておきます。景表法では一般消費者の利益を保護するために一定の表示を不当表示として禁止しております。まず商品・役務の品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると示し、または事実に相違して他の事業者のものよりも著しく優良であると示す表示を優良誤認表示として禁止しております(5条1号)。また商品・役務の価格その他の取引条件について、実際のものまたは他の事業者のものよりも著しく有利であると消費者に誤認される表示が有利誤認表示として禁止されております(同2号)。違反した場合には措置命令の対象となり、この命令に違反した場合には2年以下の懲役または30万円以下の罰金となっております(36条1項)。
医療広告ガイドライン
医療広告ガイドラインでは、誇大広告について、必ずしも虚偽ではないが施設の規模、人員配置、提供する医療の内容等について、事実を不当に誇張していたり、人を誤認させる広告を意味するとしております。そしてその例として、「知事の許可を取得した病院です」「医師数○名(○年○月現在)」「比較的安全な手術です」「○○の症状のある二人に一人が○○のリスクがあります」「こんな症状が出ていれば命に関わりますので今すぐ受診してください」「○○手術は効果が高くおすすめです」「○○手術は効果が乏しく、リスクも高いので、新たに開発された○○手術をおすすめします」といった表示が誇大広告に該当しうるとされます。いずれも実際よりも多く表示していたり、比較対象が不明であったり、伝聞や科学的根拠に乏しい場合とされます。また患者の主観または伝聞に基づく体験談も規制されております。
コメント
本件でサカイクリニック62は自社サイトに客観的根拠がないにもかかわらず、複数の治療法について「アンチエイジング」「睡眠の質改善」などの効果を表示していたとされます。適格消費者団体である消費者機構日本は、エビデンスの無い自由診療は患者の利益に反するとし、優良誤認表示が該当するとしてこれらの表示の差止を求め提訴しました。サカイクリニック62側はすでに該当ページを削除したとのことです。近年このような自由診療に関しては、必ずしもエビデンスが存在せず、また保険診療に比べて高額なもので、一般患者の利益を損なうおそれがあると指摘されております。また医療広告に関しては上でも触れたようにガイドラインが策定されてはおりますが、自由診療の規制は他の業界に比べて非常に緩く、行政による監督も十分ではないと言われております。自社のHPなどに掲載されている広告などの表示について、今一度、客観的な根拠が示せるのか確認しておくことが重要と言えるでしょう。
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