サブリース契約のオーナーが不動産会社を提訴、賃貸借契約の解除について
2024/10/07   契約法務, 訴訟対応, 民法・商法, 住宅・不動産

はじめに

不動産業者とサブリース契約を締結している兵庫県加東市の男性オーナーが25日、業者に対し建物の明け渡しなどを求め提訴していたことがわかりました。契約書にはいつでも解除できる条項があったとのことです。今回は賃貸借契約の解除等について見ていきます。

 

事案の概要

 神戸新聞の報道によりますと、原告の男性は2014年7月、兵庫県加東市内で所有する集合住宅2棟について、不動産会社に管理を任せる、いわゆるサブリース契約を締結していたとされます。しかし家賃収入などを理由に今年5月、書面で契約解除を同社に求めたが受け入れられなかったとのことです。原告側の主張によりますと、契約書には「いつでも解除できる」との条項があり、解約は正当であるとしております。一方で会社側は借地借家法の規定により解除は認められないと反論しているとのことです。

 

賃貸借契約の終了

 民法617条1項によりますと、当事者が賃貸借の期間を定めなかったときは、各当事者はいつでも解約の申入れをすることができ、解約申入れの日から、土地の場合は1年、建物は3ヶ月、動産は1日経過することにより賃貸借契約が終了するとされております。期間の定めのない賃貸借の場合、原則として賃貸人・賃借人いずれも、いつでも解約できるということです。しかし借家は賃借人にとっては生活の本拠であることから、一定の場合には借地借家法という特別法が適用され、この原則が修正されております。借地借家法28条によりますと、建物の賃貸人による更新拒絶、または解約の申入れは「正当の事由」があると認められる場合でなければすることができないとされております。また解約申し込みから契約終了までの期間も3ヶ月から6ヶ月に延長されております(同27条1項)。

 

正当の事由とは

 それではどのような場合に「正当の事由」が認められるのでしょうか。この点借地借家法28条は、当事者が建物の使用を必要とする事情、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況、建物の現況、建物の賃貸人が建物の明け渡しの条件として、または建物の明け渡しと引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申し出をした場合におけるその申し出などを考慮するとしております。ここに言う「財産上の給付」とは、いわゆる立退料のことです。裁判例で「正当の事由」が認められた例としては、建物が倒壊するおそれがあり、解体や大修繕の必要がある場合(最判昭和35年4月26日)、賃貸人が賃借人に対し、移転先の代替建物を提供する場合(最判昭和32年4月26日)、賃貸人が目的建物に住んで商売をするしか生計の道が内場合(最判昭和26年4月24日)、そして賃貸人が正当な立退料を提供した場合(東京地裁平成2年9月10日)などが挙げられます。

 

サブリース契約に関する裁判例

 それではサブリース契約の場合はどうでしょうか。サブリース契約に関する更新拒絶、解約での正当の理由が争点となった事例で裁判所は、まずサブリース契約も賃貸人が不動産会社に建物を使用収益させ、会社が賃貸人にその対価として賃料を支払うものであるから建物賃貸借契約であり、借地借家法が適用されるとしました。そしてこの事例では相続税対策としてできるだけ高額で売却する必要がある点は自己使用の必要性が大きいものとは言えないとしました。一方で賃借人がサブリース事業者であることや、転借人との転貸借契約を賃貸人が引き継ぐこと、サブリース事業者の資本金の額から他に同様の物件を相当数確保していること、本件物件を使用する必要性は収益目的のみであることなどから、通常の賃貸借に比べて立退料の意味合いがより大きいとしました。その上で本件では立退料が僅少であったことから正当の事由を補完するには足りないとして否定しております(東京地裁令和元年11月26日)。

 

コメント

 本件で兵庫県加東市のオーナーは家賃収入が減少したことを理由にサブリース契約の解約申入れを行っております。本件では契約書に、いつでも解除できる旨の条項があるとされておりますが、会社側は借地借家法の正当の事由がなく認められないと反論しているとのことです。いつでも解除できる条項がどのように判断されるか、また立退料の提示や実際に住んでいる転借人との契約、会社側の不利益の大きさなど、正当事由が認められるかが主な争点になってくるものと思われます。以上のように賃貸借契約は借地借家法が適用される場合は、更新拒絶、または解約申入れには正当の事由が認められる必要があります。特に上でも触れたようにサブリース契約の場合は、賃借人はあくまで収益目的であることから、立退料の額も重要です。賃貸借契約を締結する際には、これらの規定が適用されるのか、また解約の際にどのような事情が必要となるのかを見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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