広島県福山市、労災隠しの建設業者を1ヶ月間の指名除外
2024/10/15   労務法務, 行政対応, 労働法全般, 建設

はじめに

 広島県福山市は10日、同市の建設業者を1ヶ月間の指名除外にしたと発表しました。従業員の負傷を労基署に報告していなかったとのことです。今回は労災隠しについて見直していきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、広島県福山市の建設業「朝日住設」は昨年6月8日、同市内にある同社ヤード内で従業員がショベルカーから降りる際に転落して負傷したとされます。同社は負傷した従業員が4日以上休んだにもかかわらず、福山労働基準監督署に報告をしなかったとして、同社と社長が労働安全衛生法違反の罪でそれぞれ罰金20万円の略式命令を受け、刑が確定していたとのことです。これを受け福山市は10日、同社を同日から1ヶ月間の指名除外処分としました。

 

労災隠しとは

 労災隠しとは、労働災害が発生したにもかかわらず、労基署に労働者死傷病報告を提出しなかった、または虚偽の内容の報告をすることを言います。労働者が労働災害により死亡または休業した場合、その労働者を直接雇用している事業主は、管轄する労働基準監督署に「労働者死傷病報告書」を提出することが義務付けられております。これに違反し、労災隠しとなった場合には50万円以下の罰金が科されることとなります(労働安全衛生法100条1項、120条5号)。なお派遣労働者が被災した場合は、派遣先企業が報告することとなり、報告内容の写しを派遣元に送付することとなります。派遣元も送付された内容に基づいて報告書を作成して提出します。また労働者が休業しなかった場合、または通勤災害であった場合は労働者死傷病報告書の提出は義務付けられておりません。

 

労働者死傷病報告書の様式

 労働者死傷病報告書は被災労働者が休業した日数によって、使用する様式や提出期限が異なってきます。まず休業が4日以上である場合、労働者死傷病報告(様式第23号)を提出することとなります。提出方法は管轄労基署の窓口に持参する方法や、郵送、電子申請も可能です。提出期限は明確には定まっておりませんが、労災発生から1ヶ月を経過すると遅滞理由の提出が求められることがあるとされております。休業が1日以上4日未満である場合は、労働者死傷病報告(様式第24号)を提出します。こちらの場合は提出期限が定められており、労災が発生した四半期の翌月末日までに提出する必要があります。具体的には、1~3月に発生した場合には4月末日までに、4~6月に発生した場合には7月末日までという具合です。なお休業日数は労災発生日の翌日から起算します。労災発生日の翌日から出勤している場合は休業は無いということです。

 

労災隠し事例

 労災隠しとして実際に立件された事例をいくつか紹介します。まず建設会社の作業員が工事現場の高さ約7.5メートルの足場から墜落し、両手首骨折の重症を負って4日以上休業したにもかかわらず労働者死傷病報告を提出していなかった事例があります。また同様に建設現場での労災に際して、二次下請である塗装業者と三次下請の塗装業者の代表が共謀して労災を隠蔽し、両社の代表が書類送検された例も存在しております。死傷病報告をしたものの、虚偽の報告をした例として、実際には建設現場で全治3週間の火傷を負ったにもかかわらず、工事現場ではなく自社の資材置き場で負傷した旨の報告書を提出し、書類送検されたものがあります。また労災を隠すために、本来労災では使えない健康保険扱いにしたり、実際には勤務中に転倒して骨折をしたにもかかわらず、通勤中の災害として報告したものも存在しております。

 

コメント

 本件で朝日住設は、同社のヤード内で従業員がショベルカーから転落して4日以上休んだにもかかわらず、労基署に報告をしていなかったとして罰金20万円の略式命令が確定しております。従業員に業務災害は発生し、4日以上休業した場合は、上でも触れたように様式23号の死傷病報告書を提出する必要があります。同社はこの労災隠しにより市から指名除外の処分を受けることとなりました。以上のように労災が発生した場合はその休業日数に応じて労働者死傷病報告を提出することが義務付けられます。労災隠しは一般に労災保険の負担を増やしたくない、取引先等に知られたくないなどといった動機で行われます。しかし発覚した場合はより大きなペナルティを受けることとなります。従業員が負傷した際にはどのような手続きが必要かを慎重に確認して履践していくことが重要と言えるでしょう。

 

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