消費者庁が不実告知で社名を公表、消費者安全法とは
2024/10/28   コンプライアンス, 消費者取引関連法務, 消費者契約法

はじめに

 SNSに広告を投稿すると報酬がもらえる副業があるなどと勧誘され、広告を投稿したものの、報酬は支払われず加盟料だけが引き落とされるといった相談が相次いでいることから、消費者庁は関連する2つの会社を公表しました。同様の相談が100件近く寄せられているとのことです。今回は消費者安全法について見ていきます。

 

事案の概要

 報道などによりますと、エステ店の無料体験などを利用した客が店員から「SNSに広告を投稿すると報酬がもらえる副業がある」などと勧誘され、化粧品販売などを営む「ライフパートナーズ」(港区)と飲食店などを経営する「NEOマーケティング」の2社と契約を締結したとされます。このうち1社とは広告の投稿による報酬をもらう契約で、もう1社とは客側が加盟料を支払う契約であったとのことです。契約内容は、毎月1回SNSに広告を載せれば、報酬として4万7000円が振り込まれ、毎月加盟料が3万7000円引き落とされ、差し引き1万円が収入になるというものでした。しかし広告を投稿しても報酬は支払われず、加盟料だけが毎月引き落とされていたとされ、消費者庁は不実告知に当たるとして2社を公表し注意を呼びかけております。

 

消費者安全法とは

 消費者安全法は消費者の消費生活における被害を防止し、その安全を確保するため消費生活センターを設置し、消費者事故等の調査や被害の発生・拡大を防止するための措置を講じ、関係法律による措置と相まって消費者が安心して安全な消費生活を営むことができる社会の実現を目的とした法律です(1条)。この法律は消費者庁が設置された2009年に制定され、消費者被害に関する情報を集約して国民に提供します。消費者安全法はこれまで2回の改正が入っており、所管官庁がない重大な消費者被害事案でも消費者庁が行政処分を行うことができ、また高齢者の被害を防止すべく地域のネットワークの構築など地方消費者行政の活性化も図っております。以下具体的な制度内容を見ていきます。

 

消費者安全法による制度概要

 消費者安全法では、地方公共団体は消費生活相談、苦情処理のあっせん等の事務を実施するとし、その事務を行うために市町村は消費生活センターの設置するよう務めなければならないとしております。また行政機関、地方公共団体、国民生活センターは被害の拡大のおそれのある消費者事故等に関する情報を内閣総理大臣に通知し、内閣総理大臣は消費者事故等に関する情報等を集約し分析してその結果を公表するとしております。この法律で「多数消費者財産被害事態」とは、消費者の財産上の利益を侵害することとなる不当な取引であって、事業者が消費者に対して示す商品、役務、権利その他の取引の対象となるものの内容又は取引条件が実際のものと著しく異なるもの、その他消費者の財産上の利益を侵害することとなる不当な取引であって、事業者により行われることによって多数の消費者に被害を生じさせるおそれがあるものとされます(2条8項)。

 

消費者被害防止のための措置

 消費者安全法では、消費者被害防止のためにいくつかの措置が規定されております。まず内閣総理大臣(消費者庁長官に委任47条1項)は消費者の注意喚起のための情報を公表することができます。そして被害の防止を図るために実施し得る他の法律の規定による措置がある場合はその法律に基づく措置を実施するよう関係各大臣に要求することができます(39条1項)。また必要があると認める場合は必要な措置や不当な取引の取りやめその他の措置を採るべき旨を勧告することができます(40条)。この勧告に正当な理由なく応じない場合、必要な措置を採るよう命じることができ(同5項)、それに従わない場合は罰則として1年以下の懲役、100万円以下の罰金またはこれらの併科が規定されております(52条)。それ以外にも、重大事故の急迫した危険がある場合など、譲渡等の禁止や制限、回収命令を出すことも可能です(41条、42条)。

 

コメント

 本件では、エステ店の無料体験等を利用した消費者に、広告投稿で報酬がもらえるなどと勧誘して、実際には報酬は支払われずに加盟料だけが毎月引き落とされるといった事案です。消費者庁はこれを不実告知に該当するとして消費者安全法に基づいて事業者名を公表しました。以上のように消費者安全法では、特定商取引法や消費者契約法など他の法律による規制がない、いわゆるすき間事案であっても消費者庁に一定の行政処分を行う権限を付与しております。本件では消費生活センターへの相談件数が100件近くにのぼり、被害額も1000万円にのぼるとされ、重要な消費者被害事案と判断されたものと考えられます。個別の法律だけでなく、このような法規制の存在についても社内で周知し、消費者被害を生じさせないよう留意しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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