公取委が「KADOKAWA」に勧告方針、下請法とフリーランス新法を比較
2024/11/08 契約法務, コンプライアンス, 行政対応, 下請法
はじめに
雑誌制作に携わるライターやカメラマンに支払う原稿料などを一方的に値下げしたとして、公正取引委員会が「KADOKAWA」とその子会社に下請法に基づく勧告を出す方針を固めていたことがわかりました。引き下げ率が数十%に及ぶ例もあったとのことです。今回は下請法とフリーランス新法を比較していきます。
事案の概要
報道などによりますと、出版大手「KADOKAWA」(千代田区)とその子会社「KADOKAWA Life Design」(千代田区)は生活情報誌「レタスクラブ」などの記事や写真に関して、委託する20以上の事業者に対し、原稿料や撮影代を2023年4月号の掲載分から引き下げる旨の通告を行ったとされます。取引条件などの変更については事前協議も無く、引き下げ率は数十%に達したケースも複数あったとのことです。公正取引委員会は下請法の買いたたきに該当するとして、同社らに対し再発防止を求める勧告を出す方針を固めました。なお同社側は違反を認め、本来受け取れるはずであった報酬との差額分を全額支払うとしております。
フリーランス新法と下請法
今年11月1日から「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」が施行されました。いわゆる「フリーランス新法」と呼ばれる法律です。これまで下請法による規制では保護できていなかったフリーランス等の保護を図る法律となっております。それでは両法にはどのような違いがあるのでしょうか。まず下請法が適用される対象は親事業者と下請事業者との資本金額によって決まります。物品の製造や修理委託、政令で定める情報成果物委託については親側で資本金が3億円超の場合、下請け側が3億円以下、親側が1千万円~3億円以下の場合や下請け側が1千万円以下という具合です。これでは親事業者の資本金が1千万円以下であった場合などは適用されず、下請側が保護されませんでした。この点、フリーランス新法の適用対象は、委託側が「特定業務委託事業者」、受託する側が「特定受託事業者」とされます。特定受託事業者とは、(1)個人であって従業員を使用しないもの、または(2)法人であって代表者1人以外に役員や従業員を使用しないものと言うとされます(2条1項1号2号)。そして「業務委託」とは、物品の製造・加工や情報成果物の作成委託、役務の提供委託を言うとされ、情報成果物はプログラムや絵画、映像、文字、図形や記号などで構成されるもの等とされます。そしてこの業務委託をする事業者のうち、(1)個人であって従業員を使用するもの、(2)法人であって2以上の役員または従業員を使用する者を「特定業務委託事業者」とされます(同6項)。
下請法の規制
下請法が適用される場合、親事業者は書面の交付や書類の作成・保存、下請代金の支払期日の決定、遅延利息の支払いが義務付けられます(3条~5条)。そして禁止事項として、(1)受領拒否、(2)代金の支払遅延、(3)代金の減額、(4)返品、(5)買いたたき、(6)購入・利用強制、(7)報復措置、(8)有償支給原材料等の対価の早期決済、(9)割引困難な手形の交付、(10)不当な経済上の利益の提供要請、(11)不当な給付内容の変更やり直しが挙げられております(4条各項)。違反した場合には公取委による勧告が出され(7条)、書面交付義務等の義務に違反した場合は罰則として50万円以下の罰金が規定されております(10条)。
フリーランス新法の規制
フリーランス新法でも下請法と同様の規制が置かれております。まず業務委託をした場合、給付の内容、報酬額、支払期日その他の事項を書面または電磁的記録で直ちに明示する義務が科されます(3条1項)。そして長期間にわたる業務委託がなされる場合、委託事業者側にいくつかの遵守事項が規定されております。(1)受託側に帰責性がない受領拒否、(2)減額、(3)返品、(4)通常相場に比べ著しく低い報酬額を不当に定める、(5)正当な理由なく購入・役務の利用強制、(6)金銭・役務その他の経済上の利益提供要請、(7)一方的な給付内容の変更ややり直し要請などが禁止されます(5条)。違反に対しては公取委による勧告(8条)や、勧告に正当な理由なく従わない場合の命令(9条)が規定されており、この命令にも違反した場合は罰則として50万円以下の罰金が規定されております(24条1号)。
コメント
本件でKADOKAWAは雑誌に掲載する記事や写真を納入していた委託事業者に対し、事前協議なく代金を引き下げると一方的に通告したとされます。これは下請法が禁止する買いたたきに当たります。公取委は下請法に基づき勧告を出す方針を固めました。本件はフリーランス新法施行前の事例であることから下請法だけが適用されました。以上のように立場が強い事業者側から、立場が弱い委託事業者に対し減額や買いたたき、支払い遅延等は違法となります。またこれまで下請法では両社の資本金額を基準に適否が決められておりましたが、フリーランス新法では両社の従業員や役員の有無といった人的組織規模が基準となります。これまで下請法が適用されていなかった委託先でもフリーランス新法が適用される可能性は高いと言えます。委託先の従業員や役員の有無などを確認して、必要な対応ができているかを見直しておくことが重要と言えるでしょう。
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