東京地裁が「原ヘルス工業」に開始決定、特別清算の手続きについて
2024/12/02   商事法務, 債権回収・与信管理, 会社法, 破産法

はじめに

 「原ヘルス工業」(江東区)が15日、東京地裁から特別清算開始決定を受けていたことがわかりました。負債総額は約87億円とのことです。今回は会社法の特別清算の手続きについて見直していきます。

 

事案の概要

 東京商工リサーチの報道によりますと、原ヘルス工業は超音波温水器「バブルスター」の販売を手掛けており、タレントを起用したCMの効果もあって、1989年には売上高が620億円に上っていたとされます。しかし90年に薬事法違反によって業務停止となり、同年10月期から連続して赤字を計上し、92年10月期には債務超過に陥ったとのことです。近年は家庭用温浴器の修理に注力していたが、2023年10月期の売上高は1326万円にとどまり、債務超過額が拡大していたとされます。今年8月31日に株主総会の決議によって解散し、今回の特別清算に至ったとのことです。

 

特別清算とは

 特別清算とは、裁判所の厳格な監督の下で行われる精算手続きをいいます。株式会社は定款で定めた存続期間の満了、解散事由の発生、破産手続開始決定、合併、株主総会の特別決議などによって解散します(会社法471条)。合併や破産によって解散した場合を除き、解散した会社は清算手続きに入ります(475条1項)。精算手続きに入った会社は、精算のためだけに存続し、剰余金の配当や、自己株式の有償取得、資本金や準備金の減少、一部の組織再編などができなくなります。現務を結了し、債権・債務の処理をし、残余財産分配して株主総会で決算報告の承認により終了します。この精算中の会社に一定の事由が認められる場合に、清算人や債権者等の申し立てによって特別清算が開始することとなります。以下具体的に見ていきます。

 

特別清算の手続き

 特別清算は株式会社に、(1)精算の遂行に著しい支障を来すべき事情があると認められる場合、または(2)債務超過の疑いがあると認められる場合に適用されることとなります(510条)。これらの場合に、債権者、清算人、監査役、株主が裁判所に申し立てることができ、裁判所が職権で開始決定をすることはできません(511条1項、2項)。債務超過の疑いがある場合、清算人は申立義務があります。なお旧商法では裁判所の職権による開始決定も認められておりました。特別清算が開始された場合、破産手続や強制執行、仮差押、仮処分、財産開示手続きなどの申し立てができなくなり、既に開始していた場合は中止することとなります(515条1項)。特別清算はそれまでの通常精算の清算人がそのまま継続することとなります。特別清算開始命令が出されたら、公告がされ、財産目録等が作成され、株主総会での承認、債権者集会の招集、裁判所への債務弁済許可申請、貸借対照表の作成、債権者集会での協定の申出と可決、裁判所による協定の認可、協定の履行、裁判所による特別清算結了決定、精算結了登記という流れになります。

 

その他の手続き

 特別清算中の清算人は必要があるときは裁判所の許可を得て、その職務を行わせるために自己の責任で1人または複数の清算人代理を選任することができるとされます(525条1項、2項)。また特別清算中の会社が(1)財産の処分、(2)借財、(3)訴訟の提起、(4)和解または仲裁合意、(5)権利の放棄その他の行為を行う場合は裁判所の許可が必要となります(537条)。この裁判所の同意につき、裁判所は1人または複数人の監督委員を選任して裁判所に代わって同意を与える権限を付与することも可能です(527条1項)。なお民事執行法その他の強制執行手続きにより財産を換価する場合はこれらの同意は不要とされております(538条1項)。そして特別清算中でも、債権者との協定の見込みがないとき、協定実行の見込みがないとき、特別清算によることが債権者の一般の利益に反するとき、協定が否決されたとき、協定の不認可が決定したときは、裁判所は職権で破産手続に移行させることができます(574条)。

 

コメント

 本件で原ヘルス工業は負債総額約87億円となっております。同社は1992年から債務超過に陥り、その後も債務超過が拡大し、今年8月31日の株主総会決議で解散となったとのことです。今後監督委員の選任や財産目録作成、債権者集会の招集、貸借対照表作成等に手続きが進んでいくものと予想されます。以上のように会社の解散原因は多々ありますが、会社が解散すると精算手続きに入ります。その際に債務超過の疑いがある場合や、精算の遂行に著しい支障を来す事情がある場合は特別清算開始の申し立てが可能です。特別清算は裁判所の厳格な監督の下で行われることから、破産等の手続きと同様に公正な手続きが期待できます。業績不振で解散した場合は、破産手続きだけでなく会社法の特別清算によることも視野に、検討していくことが重要と言えるでしょう。

 

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