金融商品取引法の罪に問われるAbalance元執行役員、初公判でインサイダー取引否認
2024/12/16 海外進出, コンプライアンス, エネルギー関連
はじめに
太陽光発電事業などを展開するAbalance株式会社(東証スタンダード上場)の元執行役員の男(60)がインサイダー取引の罪に問われている訴訟の初公判で、被告である元執行役員の男が起訴内容を否認しました。
被告は “投資家向け広報(IR)のプロ”とも呼ばれており、逮捕時にはSNSなどでも大きな話題となっていました。
未公開情報元に株を買い付け、利益を得たか
被告は、今年5月、インサイダー取引を行った金融商品取引法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕されました。
当時Abalance社の執行役員だった被告は、Abalance社の子会社によるベトナムでの工場新設に関する未公表情報を入手。Abalance社の株式を買い付けた後、株価が上がったタイミングで売却し、約5000万円の利益を得た疑いが持たれています。
被告は約20年間、東京証券取引所などで勤務した経験があり、退所後は多くの企業でIR担当として、その敏腕を振るってきました。
IRとは、Investor Relationsの略で、企業が株主や投資家に対し、財務状況など投資の判断に必要な情報を提供していく活動全般を指します。最近は、株主や投資家に対するだけでなく、顧客や地域社会等に対して、経営方針や活動成果を伝えることもIRの狙いの一つになってきています。
IR活動を通じて企業が株主、投資家、顧客などと意見交換することで、相互理解を深め、信頼関係を構築し、資本市場での正当な評価を得ることができるため、近年、IR担当の重要性が非常に高まっています。
被告がIR担当として関わった会社の株価が5倍になった例もあると言われており、界隈では、“投資家向け広報(IR)のプロ”、“株価上げ請負人”などと呼ばれ、知る人ぞ知る存在でした。
その人物がインサイダー取引で逮捕されたことにSNSなどでは驚きの声が上がりました。
工場新設情報は「重要事実」に当たるか?
被告は2023年1月1日にAbalance社にIR担当の執行役員として入社。当時は、太陽光パネルを製造するベトナム子会社による工場新設の計画が進んでいたといいます。
被告は入社間もない1月中旬ごろ、「子会社が固定資産を取得する決定をした」という重要事実を知りました。その後、この情報が公表される前の1月下旬ごろにAbalance社の株式、1万9400株を買い付けたということです。
情報公開が行われた2月10日以降、Abalance社の株価は上昇。被告が入社した当時は約2000円だった株価は、2月中旬には4000円を超え、5月には1万3000円台に突入。最高値を記録していました。
被告は2月中旬から3月頃に株を売却したとみられ、約5300万円の利益を得たとみられています。
証券取引等監視委員会はAbalance社に2023年7月に強制捜査に入りました。このすぐ後に被告はAbalance社を退社し、別の企業で採用されましたが、2024年5月の逮捕で解任されています。
逮捕前、被告は新聞社の取材に対し、ベトナムでの工場新設について公表の約2週間前には知っていたことを認めた一方、当時、建設許可が下りていなかったことから、工場新設に関する情報は「重要事実」には当たらず、インサイダー取引には該当しないと話したとされています。
初公判での検察・弁護側の主張
11月27日に東京地方裁判所で開かれた初公判。検察側の冒頭陳述では、Abalance社のIR担当だった被告は子会社がベトナムで太陽光パネル部品の大規模工場を造る計画を把握し、業績が大幅に伸びると考え、Abalance社の株を買い付けたと指摘しました。
一方の弁護側は、「被告は自身の相場観で株を取得していて、未公開情報を活用したことはない」と主張。検察側が一部を切り取ってインサイダー取引があったかのように起訴したのは違法だとして、公訴棄却を求めました。
コメント
金融商品取引法では、株式市場における公正な取引を守るべく、株式の発行・倒産・合併・決算に関する情報など投資判断に重大な影響を与える会社情報である「重要事実」を知りながら、公表前に株の売買を行うこと、いわゆるインサイダー取引を原則禁止しています。
古くは、村上ファンド事件が有名ですが、令和5年度におけるインサイダー取引に関する課徴金納付命令勧告件数が13件を数えるなど、社内における理解不十分や取引推奨規制(重要事実等を伝達しなくとも、 利益を得させる目的又は損失を回避させる目的で取引を推奨する行為の禁止)についての規程への未記載などが原因となって、毎年相当数の違反事例が発生しています。
今回の訴訟で特に争点となりそうなのが、ベトナム子会社の工場新設に関する情報の「重要事実」への該当性です。この点、東京地方裁判所がどのような判断を下すのか、注目されます。
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