宝塚歌劇団が法人化でガバナンス強化、内部統制システムとは
2025/01/16   商事法務, コンプライアンス, 会社法, エンターテイメント

はじめに

 阪急阪神ホールディングスは、現在子会社の1部門となっている「宝塚歌劇団」を法人化することによってガバナンスの強化や雇用管理の透明化を図ると発表しました。今年7月を目処に会社化するとのことです。今回は株式会社の内部統制システムについて見ていきます。

 

事案の概要

 宝塚歌劇団はこれまで、上級生によるパワハラを受けて劇団員が死亡したり、長時間時間外労働でたびたび労基署から是正勧告を受けるなど様々な問題を抱えてきました。そこで阪急阪神ホールディングスはガバナンス体制強化に向けた取り組みの一環として、宝塚歌劇団を株式会社化し、同グループ子会社である阪急電鉄株式会社の100%子会社とすると発表しました。現在宝塚歌劇団は阪急電鉄の1部門という位置づけとなっておりますが、これを独立した新会社とし、阪急電鉄から公演企画、公演制作、出演の業務委託をする形を採る予定とのことです。その上で、内部統制システムを強化しつつ、取締役の過半数を社外出身者とすることで透明性を高め、加えて劇団員の人事制度・雇用関係の見直しを図るとしております。新会社の社名は「株式会社宝塚歌劇団」となり、資本金は1億円を予定しているとされます。

 

内部統制システムとは

 内部統制システムとは、企業運営の健全性を確保し、違法行為や情報漏洩などを防止するための体制を言うとされております。会社法362条4項6号では、「取締役の職務の執行が法令及び定款に適合することを確保するための体制その他株式会社の業務並びに当該株式会社及びその子会社から成る企業集団の業務の適正を確保するために必要なものとして法務省令で定める体制」と規定されております。そして362条5項では、大会社で取締役会設置会社に内部統制システムの構築義務を課しております。ここで大会社とは、資本金が5億円以上、または負債の部に計上した額の合計が200億円以上の会社を言います(2条6号)。また金商法24条4項4号では、「当該会社の属する企業集団及び当該会社に係る財務計算に関する書類その他の情報の適正性を確保するために必要なものとして内閣府令で定める体制」とし、有価証券報告書の提出義務がある会社に構築義務を課しております。

 

内部統制システムの内容

 内部統制システムの具体的な内容については会社法施行規則100条各項に規定されております。まず内部統制システムが必要な会社共通の内容として、(1)取締役の職務執行に係る情報を保存・管理する体制、(2)会社の損失の危険の管理に関する体制、(3)取締役の職務執行の効率性確保のための体制、(4)会社の使用人の職務執行が法令・定款に適合することを確保するための体制、(5)企業グループにおける業務の適正を確保するための体制となっております。監査役非設置会社の場合は、これに加えて取締役が株主に報告すべき事項の報告体制が含まれます(2項)。さらに監査役設置会社の場合は、監査役が職務を補助する使用人の設置を求めた場合、使用人の取締役からの独立性や使用人への指示の実効性確保、また監査役への報告に関する体制についても含まれることとなります(3項)。

 

上場会社の場合

 上場会社の場合、会社法とは別に金商法や内閣府令、金融庁のガイドライン等でかなり詳細な内部統制体制の構築義務が課されており、ここでは簡単に触れておきます。まず上場会社が開示する内部統制報告書は会社と利害関係のない監査法人や公認会計士の証明を受ける必要があるとされます(金商法193条の2第2項)。そして金融庁が公表しているガイドライン「財務報告に係る内部統制の評価及び監査の基準」によりますと、(1)業務の有効性および効率性、(2)財務報告の信頼性、(3)業務活動に関わる法令等の遵守、(4)資産の保全の4つの目的が掲げられております。業務の有効性・効率性を高め、財務諸表等に重要な影響を及ぼす情報の信頼性を確保し、法令その他の遵守を促進し、資産の取得や使用および処分が正当な手続と承認の下で行われることを通じて適切な事業活動を会社全体で遂行していくことが求められております。

 

コメント

 宝塚歌劇団を巡っては、かねてから劇団と劇団員との不透明な雇用関係、過剰な時間外労働、そして過剰な上下関係によるパワハラなどが問題視されてきました。とくに労務関係では労基署から複数回是正勧告を受けるなどガバナンスやコンプライアンスに対する体制の不備が指摘されておりました。そこで阪急阪神ホールディングスでは抜本的な改革の一環として劇団の株式会社化と社外取締役を多様するなど内部統制と透明性の高いガバナンス環境の整備を進めるとしております。これにより人事や雇用関係なども含めた労働環境の改善も期待できると言えます。以上のように現在会社は会社法や金商法など様々な分野でガバナンスやコンプライアンスの環境整備、体制構築が求められております。特に多くの利害関係人が生じる上場会社ではより詳細で強固な内部統制が求められます。今一度自社の体制を見直しておくことが重要と言えるでしょう。

 

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