企業間取引における責任免除・限定条項の判例まとめ
2019/12/11 契約法務, 民法・商法
1、はじめに
企業間取引における契約書には、リスク管理のために責任免除・限定条項が記載されていることがあると思います。しかし、その責任免除・限定条項が過度に自社の責任を軽減するような内容である場合、無効とされたり、適用範囲が限定される可能性があります。
そこで、今回は企業間取引における責任免除・限定条項が問題となった判例についてまとめました。
2、東京地判平成15年1月17日判時1849号59頁
<事案>
生命保険会社Xと損害保険会社Yは、業務・資本提携交渉を行うにあたり、お互いの経営内容を開示した。しかし、Yは財務実態が実質的に破綻しているにもかかわらず、これを告げずに誤った会計情報を提供し、Xから300億円の基金の拠出を受けた。
そこで、XがYに対して虚偽の情報提供したことについて、不法行為(民法709条)に基づき損害賠償を請求した事案。
<問題となった責任条項>
X・Yは「業務および資本の提携に関する覚書」と秘密保持等に関する誓約書を締結。
覚書には経営内容の開示は信義誠実の原則に基づき透明性を確保して行われることが規定。誓約書には、Yが提供した情報によってXが損害を被ってもYは責任を負わない旨の免責条項があった。
<争点>
業務・資本提携契約における免責条項の適用の可否
<結論>
免責条項は、基金拠出に必要なYの経営内容の開示が信義則に基づき透明性を確保して行われることを前提としている。本件のような重大な結果を伴う基金拠出では、重要な財務内容を開示する場合には、信義則上、できる限り適正な情報を提供すべき義務がある。したがって、YがXに対し、信義則に基づき透明性を確保して基金拠出に必要な経営内容を開示しなかった場合には、免責条項は適用されない。
3、東京地判平成15年10月29日判決判時1843号8頁
<事案>
自動車レースのスタート前の予備走行中、X運転車両が他の競技車両に衝突し炎上するという事故が発生し、Xが全身に重度の熱傷等を負った。そこで、Xが、競技長Y1及び競技主催者Y2らに対し、債務不履行及び不法行為に基づき損害賠償を求めた事案。
<問題となった責任条項>
ドライバーXは、競技参加に関連して起こった事故について、事故が主催者や大会関係役員の手違い等に起因した場合でも、主催者らに賠償を請求しない旨の誓約書に署名捺印していた。
<争点>
人身損害に関する全面的責任免除を定めた誓約書の有効性
<結論>
当該誓約書は、主催者は経済的利益を取得しつつ、一切責任は負わないという結果を容認するものであって、著しく不当・不公平であり、主催者らの一方的優位を背景に提出を義務付けた文書である。したがって、誓約書のうち、主催者らの故意・過失にかかわらず損害賠償を請求できないという部分は、社会的相当性を欠き公序良俗に反し無効。
4、東京地判平成20年11月19日判タ1296号217頁
<事案>
不動産仲介業者Xが、薬品製造販売会社Yから本件土地を購入したところ、本件土地から環境基準値を大幅に超える高濃度のヒ素が検出された。そこで、Xは、Yに対して瑕疵担保責任(※改正民法では、瑕疵担保責任が削除されました。そのため、改正民法562条1項の契約不適合責任に当たると考えられます。)に基づく損害賠償を請求した事案。
<問題となった責任条項>
本件売買契約には、本件土地に隠れた瑕疵がある場合(※改正民法では、隠れた瑕疵に限定されません)には、売主に対して損害賠償を請求することができる旨の規定があるが、本件土地の引渡し後6か月を経過した場合は、請求ができないとする期間制限条項もあった。
<争点>
売買契約における瑕疵担保責任期間制限条項の有効性
<結論>
当事者間の公平の見地から、本件瑕疵担保責任制限条項は、本件土地に環境基準値を超えるヒ素が残留していたことにつきYが悪意の場合に無効となるが、本件土地の土壌に環境基準値を超えるヒ素が残留していたことを知らない場合には、知らなかったことにつき重過失があるとしても、その効力が否定されることはない。
5、東京地判平成21年5月20日判タ1308号260頁
<事案>
Xはレンタルサーバ業者Yの共用サーバホスティングサービスを利用してWEBサイトに係るプログラムを運営していた。
ところが、サーバに障害事故が生じXのプログラム、データが消失したため、XはYに対して不法行為に基づく損害賠償を請求した事案。
なお、本事案における共用サーバホスティングサービスの契約者はAであり、XはAとの契約に基づきYが提供する共用サーバホスティングサービスを利用する第三者にあたる。 そして、Yの利用規約には、契約者が第三者にサービスを提供することは、第三者がYの利用規約を遵守することに同意することを条件として可能である旨の条項があった。
※ホスティングサービスとは、インターネットに接続されたコンピュータ(サーバ)の一部の利用を提供するサービス。
※共用サーバホスティングサービスとは、1台のサーバを複数のユーザーで共用して利用することを前提に低価格で提供するサービス。
<問題となった責任条項>
・Yの利用規約には、Yの責めに帰すべき事由により生じたサービスの不提供のうち、Yが知った時点から連続して24時間以上全く利用できなかった場合に限定して損害賠償する旨の責任制限条項。
・Yは契約者・第三者がサービスを利用し、設備の不具合・故障、目的外使用によって発生する直接・間接の損害について、上記条項により限定された責任以外には、Yの故意又は重大な過失があった場合を除き、いかなる責任も負わないとする免責条項。
<争点>
責任制限、軽過失免責を認める左記規定の有効性
<結論>
YはXとの関係においても免責規定を超える責任を負う理由はない。したがって、Yは、Xに対してプログラム、データの消失を防止する義務を負うとはいえない。Yは免責条項を前提とした料金を設定しサービスを提供していること、プログラム、データの消失防止策は容易に講じられることからも、免責条項が公序良俗に反して無効だということはできない。
6、東京高判平成25年9月26日
<事案>
X銀行は、Xの銀行業務全般を司る次期情報システム「新経営システム」の構築をY社に委託し、これに関する基本合意と個別契約を締結したが、結果としてプロジェクトが中止となってしまった。そこで、X銀行がY社の債務不履行・不法行為に基づく損害賠償を請求した事案。
<問題となった責任条項>
X銀行・Y社間の最終合意には、下記の条項が定められていた。
各個別契約が締結され、その中で両当事者の義務が規定されるまでは、いずれの当事者も最終合意に基づく何らの法的義務も負わない。
<争点>
上記合意は、Y社に債務不履行や不法行為があった場合でも、故意・重過失に基づくものであるとき以外は責任を負うことはないという、免責条項にあたるか。
<結論>
契約当事者間において、当該契約に起因して発生する損害賠償の成立要件、範囲につき、特別の定めをすることは、その内容が公序良俗に反しない限り有効なものである。そして、故意又は重過失がない場合における損害賠償の責任限定条項は、公序良俗に反するものとはいえない。そのため、契約違反及び不法行為については、本件最終合意に従って判断されるべきものである。
よって、上記条項は有効な免責条項といえる。
参照:ウエストロー・ジャパン
7、終わりに
消費者と企業の取引においては、消費者に不利な責任免除条項は、消費者契約法8条により、無効とされる可能性が高いです。しかし、企業間の取引における責任免除・限定条項には消費者契約法のような保護法がありません。
そこで、上記の判例を参考に、どのような責任免除・限定条項が無効とされるか、適用されるのかを考えてみてください。
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