Q&Aで学ぶ英文契約書の基礎第43回- 保証条項(4):保証の否認・制限
2021/11/02 契約法務, 海外法務
今回は、前回に続き、保証条項の内、保証の否認・制限(Exclusions, Disclaimer)に関する規定に関し、(供給者サイドから見た)規定趣旨と契約交渉例(顧客要求例と供給者回答例)を示します。なお、英文は、理解し易いように適宜一文を分けて訳しています。
F. Exclusions 保証の否認・制限
The above warranties do not apply to Products from which the serial numbers have been removed, or to conditions resulting from improper use, external causes, including installation, service or modifications not performed by Supplier or its authorized service providers, or operation outside the environmental parameters specified for the Product. 上記の保証は、シリアル番号が削除された「製品」、不適切な使用、外的要因(供給者または供給者認定サービス提供者以外の者が実施した設置・サービスまたは変更を含む)または当該「製品」の指定環境条件外での稼働に起因する問題には適用されない。① Supplier does not warrant that the operation of any Product will be uninterrupted or error free. 供給者は、「製品」の作動が中断されないことまたは作動にエラーがないことを保証しない。② Warranty service may not be performed if Supplier reasonably believes conditions at the Customer's site represent a safety or health risk. 供給者は、保証業務を実施する顧客の施設に安全または健康上の問題があると合理的に判断した場合、保証の履行を拒否することができる。③ THE ABOVE WARRANTIES ARE SUPPLIER'S ONLY WARRANTIES AND NO OTHER WARRANTY, EXPRESS OR IMPLIED, WILL APPLY. 上記保証はSupplierによる保証の全てであり、明示または黙示を問わずその他の保証はなされない。④ SUPPLIER SPECIFICALLY EXCLUDES THE IMPLIED WARRANTIES OF MERCHANTABILITY AND FITNESS FOR A PARTICULAR PURPOSE. 供給者は、特に、商品性および特定目的への適合性に関する黙示の保証を明示的に排除する。⑤ |
【規定趣旨】
①:シリアル番号(製品の通常の使用によっては消えない)がないと供給者はその製品が供給者から販売・ライセンスされたもので保証対象製品であるか否かを確認できないから保証対象外とする。不適切な使用、外的要因(上記例示の他災害等を含む)、指定環境条件外での稼働も含め、業界における一般的な保証対象外事項である。なお、「...に起因する問題」(conditions resulting from ....)であるからこれらの事由によらず生じた問題は保証の対象である。
②:広く認識されている通り、コンピュータ製品(特にソフトウェア)では、利用中断はしばしば発生し得、また、エラーはつきものである。従って、供給者はこれらがないことを保証しない。これも業界における一般的な保証対象外事項である。
③:例えば、紛争地域や放射能汚染地域における製品の修理等、保証の実施に当たる従業員の安全または健康に危害が生じる地域・場所での保証作業を拒否するためである。そのような地域でも製品の使用が想定される場合は現実的問題となる。
なお、この契約には、他の箇所(一般条項)に以下の規定もある。
“Supplier Products are manufactured for standard commercial uses and are not intended to be sold or licensed for use in critical safety systems or nuclear facilities.”(「供給者製品」は、標準的な商用目的で製造されており、高度の安全性を要するシステムまたは原子力施設での使用を目的として販売またはライセンスされることを意図したものではない。)
④:米国統一商事法典(UCC)2-316(保証の排除または修正)(第39回Q6参照)に従い、このWarranty条項のA~E(第40回参照)で明示的に定めた以外の保証を排除(否認)している。UCC 2-316では、保証の排除は「目立つ(conspicuous)ように表示しなければならない」とされているから、大文字かつ太字(ボールド)にしている。
また、UCC上、商談中に供給者から顧客に提出された見積書、レター、マーケティング資料等の文書または両者間の会話内容も明示の保証を生じさせ得る(2-313)(第39回Q3参照)が、仕様書等を除き、これらへの適合保証を排除する。
なお、これら見積書、商談中の会話内容等の法的拘束力を否定するには、適切な完全合意条項(第17回Q1参照)を置くことも重要である。
⑤:UCC 2-316では、「商品性」の黙示の保証は特に「商品性」について言及した上で排除しなければならないとされている。従って、「特定目的への適合性」も含め、両方について特に言及した上で排除している(“...SPECIFICALLY EXCLUDES...”)。
なお、④、⑤と同様の規定は、少なくとも米国におけるコンピュータおよびIT関連製品・サービスの販売・サービスの契約ほぼ全てに含まれている。
【顧客修正要求例1】
②の部分(利用中断等の保証排除)の削除。
【供給者回答例】
Not Agree. If the products are fault-tolerant or mission-critical systems and if Supplier’s risks to accept the warranty on non-interruption and error-free are fully compensated, there may be a possibility that Supplier would consider and negotiate about such warranty.
不同意。製品がフォールトトレラントまたはミッションクリティカルなシステムであり、かつ、供給者が中断がないことおよびエラーがないことの保証を引受けることに対し完全な補償がなされるならば、供給者がそのような保証について検討・交渉する可能性はあるかもしれない。
However, as the products supplied under this Agreement are standard products, Supplier cannot make any such warranty.
しかし、本契約に基づき提供される製品は標準製品であるから、供給者はそのような保証をすることはできない。
【顧客修正要求例2】
④の部分削除(商品性および特定目的適合性の黙示保証要求)。
【供給者回答例】
Not agree. As for the implied warranty of merchantability, for example, it is unclear what is the "fair average quality." 不同意。商品性の黙示保証(UCC2-314)に関しては、例えば、何が「公正な平均的品質」なのか(UCC2-314(b))が不明確である。
As for the implied warranty of fitness for a particular purpose, the products offered under this Agreement are standard products and are not intended to fit for a specific purpose of a particular customer.
特定目的への適合性の黙示の保証に関しては、本契約に基づいて提供される製品は標準製品であり、特定の顧客の具体的な目的に合わせたものではない。
If Supplier makes this warranty, it means that the standard products should fit the purpose that the customer happened to tell Supplier, including very special applications and vague productivity improvement.
供給者がこの保証をした場合、それは、標準製品が、非常に特殊な用途や漠然とした生産性の向上を含め、顧客が供給者にたまたま伝えた目的に適合しなければならないことを意味する。
The prices of the standard products are not set considering such warranty risk.
標準製品の価格は、そのような保証リスクを考慮して設定されたものではない。
Therefore, Supplier cannot agree to the customer's request.
従って、供給者は顧客の要求に同意することはできない。
今回はここまです。
[1]
【注】
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【免責条項】
本コラムは筆者の経験にもとづく私見を含むものです。本コラムに関連し発生し得る一切の損害等について当社および筆者は責任を負いません。実際の業務においては、自己責任の下、必要に応じ適宜弁護士のアドバイスを仰ぐなどしてご対応ください。
(*) このシリーズでは、読者の皆さんの疑問・質問等も反映しながら解説して行こうと考えています。もし、そのような疑問・質問がありましたら、以下のメールアドレスまでお寄せ下さい。全て反映することを保証することはできませんが、筆者の知識と能力の範囲内で可能な限り反映しようと思います。
review「AT」theunilaw.com(「AT」の部分をアットマークに置き換えてください。)
【筆者プロフィール】 浅井 敏雄 (あさい としお) 企業法務関連の研究を行うUniLaw企業法務研究所代表/一般社団法人GBL研究所理事 1978年東北大学法学部卒業。1978年から2017年8月まで企業法務に従事。法務・知的財産部門の責任者を米系・日本・仏系の三社で歴任。1998年弁理士試験合格(現在は非登録)。2003年Temple University Law School (東京校) Certificate of American Law Study取得。GBL研究所理事、国際取引法学会会員、IAPP (International Association of Privacy Professionals) 会員、CIPP/E (Certified Information Privacy Professional/Europe) 【発表論文・書籍一覧】 |
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