大王製紙前会長による巨額借り入れ事件
2013/03/01 コンプライアンス, 会社法, メーカー
事案の概要
大王製紙前会長による巨額借り入れ事件
(前会長・井川意高(いがわ もとたか) 被告人(48)が2011年3~9月、海外のカジノ賭博で抱えた負債の穴埋めなどの目的で、役員を兼務している連結子会社7社から取締役会の承認を得ずに約55億円を借り、各社に損害を与えたとされるもの)
同事件で会社法違反(特別背任)に問われた井川被告人の控訴審で、東京高裁(小川正持裁判長)は28日、懲役4年の実刑とした1審・東京地裁判決を支持し、井川被告人側の控訴を棄却する判決を言い渡した。
小川裁判長は「公私混同も甚だしく、犯行を繰り返して被害を拡大させた。創業家長男としての絶対的な支配権を乱用し、悪質だ」と厳しく非難。
井川被告人の弁護人は最終弁論で、ギャンブルにのめり込んだ背景として「創業家出身の経営者としての精神的重圧」に言及したが、堀田裁判長は「事件の遠因とは評価できない」と判断。実刑が相当と結論付けた。
井川被告人は黒のスーツ姿で出廷し、直立不動の姿勢で主文を聞いた。裁判長が閉廷を告げると一礼、小声で「ありがとうございました」と述べた。
関連条文
会社法960条
1 次に掲げる者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は株式会社に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、当該株式会社に財産上の損害を加えたときは、十年以下の懲役若しくは千万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 発起人
二 設立時取締役又は設立時監査役
三 取締役、会計参与、監査役又は執行役
四 民事保全法第五十六条 に規定する仮処分命令により選任された取締役、監査役又は執行役の職務を代行する者
五 第三百四十六条第二項、第三百五十一条第二項又は第四百一条第三項(第四百三条第三項及び第四百二十条第三項にお いて準用する場合を含む。)の規定により選任された一時取締役、会計参与、監査役、代表取締役、委員、執行役又は代表執行役の職務を行うべき者
六 支配人
七 事業に関するある種類又は特定の事項の委任を受けた使用人
八 検査役
コメント
カジノ賭博で抱えた負債の穴埋めを目的とする今回の借り受け行為は、大王製紙業務との関連性がなく、もはや経営判断云々以前の問題といえる。
今回の事件は同属経営の悪い例となってしまった。
ところで、同属企業・経営そのものは、はたして悪なのだろうか。
確かに、同族や世襲という言葉について最近はあまり良い印象をもたないかもしれない(「世襲議員」など)。
ところが、日本では、経済全体に占めるファミリービジネス(同属経営)のウエイトは極めて大きいとされる。
例えば、企業数で見ると、全体の約95%はファミリービジネスである。また、雇用者数は全体の6~7割を占めている。 日本のファミリービジネスは海外に比べて長寿という傾向も見られる。業歴100年超のファミリービジネスは、欧州全体で6,000社、米国では800社と言われているのに対し、日本では3万社と推測されている。
同属経営のメリットは以下のもの等がある。
①株式買収によって経営権が奪われるリスクを低下させることができること
②会社を一族(特に息子)に継承させることにより、社長交代など、経営陣の移行を円滑なものにできること。
③長期的な視点で見た経営を進めることができること
したがって、同属企業・経営であるからといって、直ちに悪ということにはならないといえる。むしろ、メリットとなる場合が多い。
ただし、デメリットも当然存在する。
デメリットとしては以下のものがある。
①適切な能力を持たない者が経営者となるリスクを高める。
②一族の利益を、株主や社員より不当に優先させる場合がある。
井川被告人は大王製紙会長時代、取引先との関係改善やブランド戦略などによって、大王製紙の家庭紙事業を黒字転換させたとしてその経営手腕が評価されていた実績もあった。
そうすると今回の事件は上記デメリットの②の例と位置づけることができる。
今回の事件は同属企業の上記デメリットを克服する仕組み作りの貴重な資料となるといえる。
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