改めて確認しておきたい、改正高年齢者雇用安定法のチェックポイント
2013/11/27 労務法務, 労働法全般, その他
事案の概要
昨年8月29日に成立し、今年の4月1日より施行された改正高年齢者雇用安定法(以下、「法」とする。)。改正に至ったのは、厚生年金(報酬比例部分)の支給開始年齢が60歳から段階的に引き上げられることにより、60歳定年後に継続雇用がされない場合に無収入となる者が生じる可能性が出てきたことによる。
以下、改正のポイントにつき検討する。
①継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止(旧法9条2項の改正)
改正以前から、定年を65歳未満とする事業者については高年齢者雇用確保措置(以下、「雇用確保措置」という。)を講じることが義務付けられている(9条1項)。そして雇用確保措置のうち継続雇用制度について、改正以前は希望者全員を対象とせずに、労使間の協議により定めた基準により対象者を限定する仕組みが認められていた(旧法9条2項)。
しかし、労使間の協議によっては労働者に不利な基準が設定され、継続雇用を希望する者が雇用されない状況が想定される。そこで、65歳までの安定した雇用を確保するために従来の仕組みを廃止して、原則として事業者に対し希望者全員を当該制度の対象とすることを義務付けた(改正法9条3項)。
現在、当該制度とる企業のうち3割ほどが後述の経過措置の適用を受けているものの、それ以外の多数は既に希望者全員を対象として当該制度を運用している。
②継続雇用制度の対象者を雇用する企業の範囲の拡大(改正法9条2項、同法施行規則第4条の3新設)
改正により、雇い元である事業主だけでなくそのグループ会社(施行規則第4条の3に定める各会社に該当するもの)により雇用を確保することも認められることとなった。これにより、元の雇い主である事業者が継続して雇用できない状況であっても高年齢者の雇用が確保されやすくなった。
③義務違反の企業に対する公表規定の導入(法10条3項の新設)
改正以前は雇用確保措置を講じない事業主に対し、必要な指導または助言をし(同条1項)、なお措置を講じない場合に当該措置を講じるように勧告できる(同条2項)にとどまっていた。勧告に従わない旨の事実を公表することは企業の信頼に大きく関わることから、雇用確保措置の導入を促す上で実効性のある規定であると考えられる。
④高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針の策定(改正法9条3項)
雇用確保措置を実施及び運営する上で留意すべき事項につき指針が示されることとなった。例えば、原則として希望者全員が継続雇用制度の対象とすることとなっているものの、一定の場合には継続雇用しないことができる。また、グループ会社を利用して継続雇用を行う場合には新旧の雇い主の間で継続雇用を約する契約を締結することが求められる(いずれも同指針第2の2参照)。企業はこのような点に留意して実施及び運用していく必要がある。
⑤継続雇用制度の対象者基準ついての経過措置の適用
改正以前から継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主については、今回の法改正により企業内の制度を整備する必要が生じることから、経過措置が適用される。
この経過措置において当該基準の対象とできるのは、厚生年金の支給開始年齢以上の者に限られる。そのため、例えば、厚生年金の支給開始年齢が62歳となる年では62歳以上の者につき制度の対象者を限定する基準を定めることができるが、62歳未満の者については希望者全員につき継続雇用制度の対象とする必要が生じることととなる。
コメント
厚労省によれば、8割の企業は継続雇用制度を採用しており、当該制度がより適切かつ柔軟に利用されることが高年齢者の雇用の安定化に資するといえる。その点で改正ポイント①および②は実効性のある規定といえる。
また、公表についてもその効果の大きさから有益な規定といえるだろう。現在、雇用確保措置を講じていない企業はごく少数ながら存在するが、そのような企業は指導および勧告の段階で早急に当該措置を講じるべきであろう。
今回の改正を通じて、高年齢者が希望すれば65歳まで安定した雇用が確保されるという仕組みが各企業でさらに共有されていくだろう。ただ、急激な高齢化の流れと労働人口確保の必要から今後は70歳までの安定した雇用を確保する必要性が出てくる可能性がある。そこで、改正の契機となった厚生年金の支給開始年齢の再検討も含めた、年金制度改革も速やかに行われることが望まれる。
関連サイト
企業の高年齢者の雇用、広がる
高年齢者雇用安定法の改正~「継続雇用制度」の対象者を労使協定で限定できる仕組みの廃止~
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