電力小売りの全面自由化~改正電気事業法が参議院本会議で可決・成立~
2014/06/16 法改正対応, 法改正, その他
事案の概要
2016年をめどとした電力小売りの全面自由化を中心とした改正電気事業法が11日、参院本会議で可決、成立した。
電力小売りは2000年以降、段階的に自由化されている。工場や商業施設等の50キロワット以上の大口消費者への販売は既に自由化されており、大手電力10社以外にも認められている。今回の改正は全面的に自由化することで、家庭や小口商店向けの市場への参入規制が撤廃されることになる。
・改正電気事業法の主な内容
1)大手電力10社による地域独占を撤廃
現在は大手電力10社が営業区域ごとに電力販売を独占している。
改正電気事業法は、この独占の仕組みを完全に撤廃する。これまでも企業向けには自由化がなされていたが、改正電気事業法は一般家庭を含む小口部門の小売りも完全に自由化されることになる。
従来の大手電力による地域独占と参入規制が撤廃されることで、消費者は他地域の電力会社や新規小売り事業者を選ぶことが可能になり、電力会社間の競争が本格化するとともに、電気料金の引き下げやサービスの多様化が今後予想される。
2)利用者保護のための措置
新規事業者等の参入による競争が本格化するまでの間、大手電力各社が逆に値上げをすることも想定しうる。また既に自由化されている大口市場においても、新規事業者のシェアは数%にすぎず、大手電力会社と十分に渡り合えていない現状があり、自由化を理由に逆に値上げが行われることも考えうる。そこで経過措置として一定期間、料金規制が継続されることとなった。
3)電気の安定供給のための措置
競争の本格化により、利益の見込める特定地域に供給が集中し、地域ごとの電力供給や料金が不安定になるおそれがある。
そこで、離島にも通常の地域と同程度の料金で電力供給を行うことが義務付けられた。
また送配電事業者に送配電網の建設・保守を義務付け、小売事業者に必要な電力の確保も義務付けた。
4)その他
不正取引などを防止するため、これまで私設・任意で運営されていた卸電力取引所が法定化することになった。
※卸電力取引所
電気は一般に、価格と量だけで市場取引できる商品であり、その電気の卸売取引が行われる場が「卸電力取引所」である。日本では2003年11月に「日本卸電力取引所(JEPX)」が中間法人として設立され、唯一の取引所として活動している。
コメント
今回の改正は、3段階での進行が予定されている、電力システム改革の第2弾になる。第1弾では広域的な運用を拡大するための広域的運営推進機関を創設することを内容とし、今回の改正電気事業法では、小売業への参入が全面的に自由化された。これにより他業種からの参入や、大手同士の地域をまたいだ越境販売も予想され、競争による電気料金の低下が期待できる。しかし東京電力福島第1原発事故後の原発停止により、大手電力会社の体力も弱体化しており、競争の激化によるコスト削減も加わることで十分な設備投資がなされず、安定した電力供給が確保できないおそれもある。また15年に法案提出が予定されている第3弾では、大手電力の発電と送配電部門を別会社に分離することを目指し、電気の小売料金の自由化も予定されている。事業への参入が自由化されても新規が十分に渡り合えない状況が続いた場合、逆に電力会社の寡占化が進行し、その中で小売料金を自由化すると、電気料金が上昇することも想定しうる。自由化により、電気料金上昇や電気供給を受けられないといった損害が利用者に生じないよう、料金規制の経過措置期間や安定した電力供給のための対策につき慎重な対応が望まれる。
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