日本における有給休暇の現状と、各企業の取り組み
2015/01/28 労務法務, 労働法全般, その他
労働基準法改正案が今国会に提出へ
今月26日に召集された通常国会に、低迷する年次有給休暇の取得率アップの対策として、「年次有給休暇の時期指定権を企業側に一部移行する」内容を盛り込んだ、労働基準法改正案が提出される見込みです。そこで今回は、企業における有給休暇取得の実態と、社員に有休取得を促す企業の取り組みについて調べてみました。
2014年 日本の有給取得の現状
今月はじめ、オンライン旅行会社大手、エクスペディアジャパンが毎年行っている「有給休暇国際比較調査」の2014年の調査結果が発表されました(調査対象国:25カ国、対象者:18歳以上の有職者男女、調査期間:2014年8月25日~9月17日)。
2013年の調査まで、6年連続で有休消化日数及び有休消化率ともに世界で最下位だった日本ですが、14年の調査では、ついに最下位を脱出、有休支給日数20日・有休消化日数10日・有休消化率50%で、ワースト2位になりました(ワースト1位は韓国で、有休支給日数14.6日・有休消化日数7日・有休消化率48%。トップはブラジル、フランス、スペインで有休支給日数、消化日数ともに30日、有休消化率100%でした)。
また、厚生労働省が行った「就労条件総合調査(2014年)」でも、企業が付与した年次有給休暇日数は18.5日、実際に取得した日数は9.0日、取得率は48.8%で前年から若干(1.7ポイント増)の改善がみられるということで、上記調査とほぼ同じ結果が出ています。
前年よりは多少、日本において有給休暇取得に関する環境が改善されたとはいえ、まだまだ世界的に見て、日本の有休取得率が圧倒的に低いことに変わりはありません。上記エクスペディアジャパンの調査によれば、日本は韓国を抜いてワースト1位を脱したとはいえ、3位のマレーシアは有休取得率71%と、およそ20ポイント以上の差があります。
なぜ日本の有休取得率は低いのか
それでは、なぜ日本の有休取得率は低いのでしょうか。上記調査やその他大手インターネット会社のアンケートを見ると、そこには“罪悪感”というキーワードが浮かんできます。
エクスペディアジャパンの調査では、「有給休暇をとる際に罪悪感を感じる人の割合」は、日本は26%でワースト1位でした(ワースト2位は韓国。トップはスペインとメキシコで8%)。また、「休暇中も仕事のことが頭から離れない割合」も日本が13%でワースト1位となりました(ワースト2位は韓国で8%。トップはアイルランドとノルウェーで2%)。さらに、大手検索エンジンYahoo!が行った「有給取得に罪悪感を感じる?」という意識調査(実施期間2014年12月11日~12月21日。サンプル数6万3929票)でも、「罪悪感を感じる」と回答した人が38.0%と、約4割の人が有休取得に罪悪感を感じていること明らかになりました(「罪悪感を感じない」は54.2%、「分からない/どちらとも言えない」は7.8%)。
有休取得率アップのための取り組み
【労働基準法改正案について】
政府は2020年までに有給休暇の消化率を70%にまで引き上げようとしています。しかし、この目標を達成するには、これからの5年間で20%以上、有休消化率を上げなければなりません。
そこで、政府は今週月曜日26日に召集された通常国会で、企業に対して従業員が有給休暇をいつ取得するのか時期の指定を義務付ける労働基準法の改正案を提出する見込みです。現在の法律では、有給休暇の取得は「従業員からの請求」が前提となっているため、従業員がいつ有給休暇を取得するのか企業側に取得時期指定の義務を負わせる今回の改正案は、“罪悪感”から有給休暇取得の申し出を躊躇してしまう人に対しては一定の効果があるかもしれません。しかし、一方で、有給休暇は労働者の権利なのだから、罪悪感など持たずにすでに有給休暇をしっかり取っている、という労働者からすれば、「改正案は、いつ休暇を取得するかについての自由がなくなる」ということで、反発の声が上がっているのもまた事実です。これらの声を反映して、今回の国会では最終的にいかなる形で労働基準法が改正されるのか、注目されるところです。
【企業の取り組み】
では、企業は社員の有休取得率アップのため、どのような対策を講じているのでしょうか。労働者のワークライフバランスが叫ばれる昨今、企業も様々な工夫をしているようです。
たとえば、今月19日、ブライダル事業を展開するノバレーゼは、2015年の1年間で、社員に有給休暇を100%取得させることを管理職に義務付けると発表しました。同社発表によれば、1月下旬までに各部門長が社員から取得希望日をヒアリングして、全社員の1年間の部署単位の有休取得予定を同月末までに確定、この計画通りに休みがとれているか人事部が定期的に出勤簿で確認し、3ヶ月ごとに各部門の取得率ランキングを発表、そして、期末時点で部下の取得率が100%にならなかった部門長は、マイナス査定されるとのこと。同社は、年間の休暇体制を年初に策定して、旅行など充実した休日を過ごせるように工夫し、メリハリある働き方で、社員の満足度向上とより健康的な企業体質を目指すとしています。
また、東洋経済オンラインが公表した「『有給休暇をしっかり取れる』トップ200社ランキング」(2015年1月5日)で、見事1位となった東武鉄道は、1時間単位の有休制度を設けるなど、有休を申請しやすい雰囲気だけでなく、そもそも有休を消化できる“システム”を整えているようです。
また、2011年の有休取得率が80パーセントと、全国平均よりもかなり高水準だった三菱化学は、2006年に有休を2日連続で取得すると1日おまけで休めるという「ライフサポート休暇制度」を導入、この制度により、同社の有休取得率は5%近く上がりました。
このように、企業も社員の有休取得率アップに向け、様々な努力をしているようです。
最後に
なかなか、有休取得率の向上が見られない日本においては、そもそも有休取得率のアップを目指すのではなく、お隣の国、韓国のように、「未消化年休買い上げ制度」を義務化すべき、という声もあります。しかし、有給休暇とはそもそも、「労働者の健康で文化的な生活の実現に資するため」労働基準法で認められた労働者の権利です。早々に有休取得率の増加を諦めて、「休めないならせめてお金が欲しい・・・」という方向にシフトするというのは、上記趣旨・目的から離れてしまいます。
企業としては、従業員が適切に休暇をとって、心身ともにエネルギー溢れる状態で業務に励むことにメリットはあれど、デメリットはありません。また、上記調査から日本における有休取得には“罪悪感”というキーワードがあることも分かりました。企業の管理部門の皆さんも、上記他の企業の取り組みを参考に、自社の有休制度、そして職場環境が社員に“罪悪感”を与えるものでないか、今一度確認してみるのも良いのではないでしょうか。
関連サイト
有給休暇国際比較調査(2014) エクスペディアジャパン
『有給休暇をしっかり取れる』トップ200社ランキング 東洋経済オンライン
あなたの有給余っていませんか?法務担当者の有給取得実態とは!? 企業法務ナビ
就労条件総合調査(2014年)厚生労働省
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