長時間労働問題の現状と取り組み
2015/03/23 労務法務, 労働法全般, その他
事案の概要
厚生労働省の毎月勤労統計調査によると、フルタイムで働く正社員の残業時間は週あたりにすると約3時間であるという。また、正社員の年間ベース残業時間は2010年以降増加傾向にあり、2014年の残業時間平均は合計173時間と1993年以来最長となっている。残業時間は多くの産業で延びており、特に貨物運送業(年463時間)、自動車製造業(年275時間)、情報サービス(年248時間)で目立っている。
一方で、経済協力開発機構(OECD)の統計によれば、ルール上の労働時間と残業をあわせた総労働時間は過去数年1800時間を割り込み、米国やOECD平均を下回っている。このことを踏まえ、日本の長時間労働問題は改善傾向にあるとの指摘もある。
しかし、これは労働時間が正社員のおよそ半分とされるパート社員も含めた数字である。日本では労働者に占めるパート社員の比率が、90年の15%から最近は30%まで上がっており、これが平均の総労働時間を押し下げている。正社員に絞った総労働時間は2014年に2021時間で、ここ10年以上はほぼ横ばいである。週休2日制の普及でルール上の労働時間は減少しているものの、上述の通り残業時間が増加しており、働く負荷自体は減っていない。
長時間労働の原因
主な原因は、終身雇用にあるとされる。受注が増えれば社員を増やし、受注が減れば社員を減らす米国とは異なり、日本では今いる社員の労働時間を増減して対応するのが一般的になっている。
また、日本の場合、チームで仕事を進めることが一般的であり、自分の仕事だけを終えても帰れないことが多い点、遅くまで働く人間を評価する傾向にある点も原因とされている。
政府による取り組み
政府は、長時間労働を是正するため、勤務地や仕事の内容、勤務時間等を限った「限定正社員」の普及に取り組んでいる。昨年に導入に向けた指針をまとめ、企業に導入を促し始めている。従来型の正社員に比して、本人の希望に沿った働き方ができるため、決まった時間に仕事を終えて、介護や育児とも両立しやすくなる。厚労省によれば、現在は日本の正社員のうち1割程度が限定正社員であるという。
また、2016年春からは年5日分の有給休暇を全員に取らせるよう企業側に義務付ける方針である。これまで有給休暇は、働く人が申し出る必要があり、職場への遠慮で休みにくかった。厚労省によると、正社員のうち16%は有給休暇を年に1日も取っていないという。
さらに、自民・公明両党の厚生労働部会は、3月17日、働いた時間に関係なく成果のみで賃金を決める成果型労働制の導入を盛り込んだ労働基準法改正案などの関連法案を了承している。対象となるのは、「平均給与額の3倍程度を上回る水準」として年収1075万円以上の特定分野の専門知識を持つ会社員である。企業は休日出勤にも賃金を払う必要がなくなるため、「『残業代ゼロ』で長時間労働を強いられる」との批判が野党から上がっている。
企業による取り組み
個々の企業でも、労働時間を減らすための試みがなされている。伊藤忠商事では、2013年秋から、国内正社員を対象に、午後8時以降の残業を原則禁止にし早朝勤務を促す制度を導入している。総合職の残業時間は月45時間と、制度導入前に比して4時間減少したという。
コメント
長時間労働を是正するには、政府による制度改革はもちろんのこと、企業内部の自主的な制度導入や社員の意識改革も重要となる。しかし、上述のような取り組みをしている企業は現状まだ一部に限られている。各企業には企業トップの主導による一層の取り組みが求められている。
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