e-文書法の改正で経費精算のデジタル化が進む?
2015/07/23 法改正対応, 法改正, その他
【e-文書法とは】
e-文書法は、領収書や契約書などの証憑(取引の成立を立証する書類)をデジタルデータで保存することによって、貼り付け作業の手間や保管コストを低減する目的で2005年4月に施行された。
正確には、民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律(通則法)と、民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」(整備法)を指す。
【対象】
①対象文書
・原則として、各種法律で保存が義務づけられている全ての文書
(文書の保存を規定する法律298本のうち251本が対象文書)
②対象外文章
・緊急時に即座に表示可能な状態にする必要があるもの
(船舶に備える安全手引書など)
・現物性(資産性、実物性)が極めて高いもの
(免許証、許可証など)
・条約による制限があるもの
【要件】
①表示性、②完全性、③機密性、④検索性
※電子化保存を行うときに4つの要件全てが求められるわけではない。
①表示性は、e-文書法の対象文書全てに必要とされる。
②完全性は、一部の特定文書のみに必要とされる。
③機密性は、法的な保存要件としては必要とされない。
④検索性は、一部の特定文書のみ必要とされる
【改正内容】
もっとも、現在、e-文書法に基づくデジタルデータによる保存は普及しているとはいえない。普及が進まない理由には、以下のような3点のe-文書法上の規制が挙げられる。
①領収書や契約書などのうち3万円以上のものは原本を保存しなければならないという規制
※スキャナーで読み取り原本を廃棄することが認められていたのは、3万円未満のものに限られていた。そのため、3万円未満のものと3万円以上のものを別々に処理しなければならなかった。
②デジタル化したデータに電子署名とタイムスタンプを付与しなければならないという規制
※電子署名とタイムスタンプの導入には外部のシステム会社に依頼する必要があり、導入コストが大きい。
③「原稿台付のスキャナー」が必須であるという規制
※スキャナー設置のための初期費用やスキャンをする手間がかかる。
今秋の改正が決定しているのは主に、①3万円以上の証憑の原本保存と、②デジタルデータへの電子証明書の付与の2点の要件についてである。
すなわち、上限3万円の規制は今年の9月30日で撤廃され、証憑をデジタル化したらすぐ、金額にかかわらず紙の原本を廃棄できるようになる。また、デジタルデータに対する電子証明書の付与も、9月30日以降は認定業者の仕組みを組み込む必要がなくなり、データ化した人が特定できるIDとパスワードによる代用で済むことになる。
経費の精算は、領収書の原本をコピー用紙に1枚ずつ貼り付けるなど面倒なアナログ作業になりがちである。今秋のe-文書法改正によってこのような状況は変わるのであろうか。
【コメント】
たしかに、今回の改正により、e-文書法に準拠したデジタル化の仕組み作りや紙の原本を保存するための手間、保管コストが大幅に軽減されるため、今後はe-文書法に対応する企業が増えるとも予想されている。
しかし、今回の改正では、③の原稿代付のスキャナーが必須である点には変わりがない。そのため、営業担当者はスマートフォンやデジタルカメラで撮影した画像データをそのまま経理担当者に送るなどの方法はとることができない。
また、日本CFO協会が行ったアンケート調査においては、企業の経理担当者705人のうち62%が「スマートフォンやデジタルカメラで撮影した画像データ」でも原本の廃棄を認めてほしいと回答しており、領収書の保管がスキャナーで読み取ったものしか認められない場合、22%の企業が「将来的にも導入は検討しない」と回答している。
他方で、スマートフォンやデジタルカメラでの読み取りが解禁された場合、「将来的にも導入は検討しない」との回答は5%まで減少する。
つまり、多くの経理担当者にとって、スキャナーが必須であるとする今回の改正では、改正前の不満を解消できないといえる。
また、③の点が改正されないままであると、結局は、経費精算のためには領収書を1枚ずつスキャンする手間があり、企業側もスキャナーの設置のために初期コストをかけなければならない。
とはいえ、スキャナーの替わりにスマートフォンやデジタルカメラでの撮影を許可したとしても、画像データーの改竄を防ぐためにはタイムスタンプのようなものは(完全性が要求されるものにおいては)必須のままである。
そうだとすれば、特に中小企業などのように余計な経費や人手の足りない企業にとっては、従来からの経費精算方法を変更するほどの魅力はなく、今回の法改正がされても、現状のまま原本をコピー用紙に貼り付けるというアナログ作業のままになるのではないだろうか。
今秋の改正によってもデジタル化の促進はある程度進むとは思われるが、今後スマートフォンやデジタルカメラでの撮影を許可した上で、手間や経費のかからない証明手段を模索する必要があるのではないか。
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