横浜マンション傾斜と宅建業法上の責任
2015/10/22 不動産法務, 民法・商法, 住宅・不動産
1 概要
老後を過ごすために購入したのにこんなことになるとは思っても見なかった――マンションの一住人はそんな本音を漏らした。
今月14日、従前から住民より指摘のあった横浜都築区のマンションの傾斜について、旭化成が子会社である旭化成建材の地盤への打ち込み工事において52本の杭の内8本が支持層と呼ばれる規定の地盤に到達していないという深度不足問題、及びデータ改ざんがあったことを正式に発表した。更に続く調査により、強度に影響するセメント量のデータの改ざん及び別の地盤調査データの転用が明らかになった。旭化成建材は社内調査委員会と利害関係の無い弁護士等により結成された外部調査委員会を設置して調査を進める指針を明らかにした。建物自体の安全性の調査や住人への説明・対応が急務となっている。
2 適正な「補償」は困難
とりわけ注目に値するのは、マンション住民と業者の間で議論が紛糾している、マンションの資産価値の下落の有無とそれに伴う補填問題だ。今回のケースでは地盤への杭の打ち込み不足や強度不足という欠陥(これを法的に「瑕疵」という)があり、三井不動産レジデンシャルは15日、マンション住民向けに開かれた説明会で配布した文書において、傾斜の見られる棟について①住戸の買い取り②賃貸時の損失③改修工事費用③精神的負担などにかかる補償④一時避難としてのホテル宿泊や建て替え完了までの仮住まいにかかる費用などを列挙した。だが、住民側に購入時に支払った金額が全額払い戻されるわけではない。当該マンションは杜撰な工事による住居としての基盤を欠いたものとして世間から認識されており、買い手がつくとは考えられにくい。いわゆる風評被害だ。同社は16日付けで、住民からの要望に応じ風評被害についても補償するとの考えを示した。
このような「瑕疵」の問題について記した宅地建物取引業法上の40条の記述は至ってシンプルだ。
1) 宅地建物取引業者は、自ら売主となる宅地又は、建物の売買契約において、その目的物の瑕疵を担保すべき責任に関し、民法第570条において準用する同法第566条3項に規定する期間についてその目的物の引き渡しの日から2年以上となる特約をする場合を除き、同条に規定するものより買主に不利となる特約をしてはならない。
2) 前項の規定に反する特約は、無効とする。
それ以上の具体的な解決策は個々の事案の当事者に委ねられる。条文をそのまま当てはめれば、販売元である三井不動産レジデンシャルは宅地建物取引業法上の瑕疵担保責任(同法40条)を負い、契約の解除や損害賠償などの方策をとることとなる。しかし、今回のように多数関係者が存在する場合、一概にマンションの建て直しや金銭による賠償で対応しきれなくなる。個々の住民により損失の程度は異なり、精神的負担や風評被害の算定方法についても何を基準として用いるのかという抽象的段階から協議しなければならない。住民は1人暮らしから家族連れ、老夫婦など多様だ。損害賠償と一言で言うのは易いが、前途多難である。
3 結び
建築物、特に多数の住人を有するマンションにおける補償問題は住人間の意見の合致も難しく、とりわけ700世帯もの住人がいる今回のケースでは事案の解決が長引くことは容易に予想される。数年、十数年単位で問題解決をしていく双方の誠実な姿勢があってようやく解決される。当該マンションは旭化成は勿論のこと、販売元の三井不動産レジデンシャル、工事元請けの三井住友建設と下請けの日立ハイテクノロジーズなど不動産業界大手が名を連ねているだけに、業界のリーディングケースにあるであろう。今後の動向に注目したい。
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