独禁法違反による課徴金、裁量制に転換へ
2016/01/06 独禁法対応, 独占禁止法, その他
1 新たな制度設計へ
公正取引委員会は独占禁止法に違反した企業への課徴金制度を見直す。
現在、課徴金の減額は、原則的に公取委の調査開始前に企業が申し出た場合に限られる。それを、カルテルなどの調査に協力すれば金額を減らす裁量型の仕組みにする方針だ。
企業の協力を促し、早期の事件解明につなげる事が狙いだ。また、企業活動の国際化に対応し、欧米の制度に合わせる狙いもある。
2 独禁法の目的
(1)独占禁止法は、事業者の自主的な判断に基づく自由な活動を確保し、公正かつ自由な競争の促進を目的としている。
独占禁止法は、目的達成のため、私的独占、不当な取引制限(カルテル、入札談合等)、不公正な取引方法などの行為を規制している。
(2)カルテルとは、複数の企業が共謀して競争を避け、不当な利益を確保しようとする行為を言う。カルテルには主に①価格協定(同業者間で価格を合わせる協定)のほか②数量制限協定(生産数量を調整する協定)③市場分割協定(販売地域をすみ分ける協定)の3類型がある(独禁法7条の2)。
(3)日本を含む多くの国では企業に対する行政罰が基本だが、米国やカナダなどでは犯罪として扱われ、関与した役員や従業員が刑事訴追されることもある。
3 現在の制度
独占禁止法は現在、カルテルなら違反行為をしていた事業の売上高の10%、ライバル企業を締め出す私的独占行為なら6%、下請けいじめのような優越的地位乱用は1%というように定額の課徴金を設定している(独禁法7条の2、20条の2~6)。
現在、主要国の中で定額型の課徴金制度を採っている国は、日本のみである。
EUや中国、韓国などは当局の判断で金額を変えられる仕組みを導入済みだ。
独禁法違反に刑事罰を科す米国やカナダも、罰金を減額できる仕組みを採用している。EUや米国では、企業がどのような協力をすれば課徴金や罰金を減額するか一定の目安を示している。先進国において、課徴金や罰金の減額を取引材料に企業からカルテルなどの有力な証拠を引き出す手法の使用は、既に国際標準だ。
日本は、公正取引委員会の本格調査開始前に自主申告すれば、先着5社に限り課徴金を減免する制度を導入している(独禁法7条の2第10項~)。もっとも、カルテルを行っている企業から本格調査開始前に自主申告を求めることは当然難しい。また、本格調査開始後に公正取引委員会に協力をしても課徴金は減免されないことから、カルテルの調査の際に企業側に、積極的に協力を求めることは難しいのが現状である。
4 新たな制度
新たな仕組みは「裁量型課徴金」と呼ばれるものだ。公正取引委員会は1月下旬から制度設計を始め、最短で2017年の通常国会に独占禁止法の改正案を提出する見通しだ。金融商品取引法等を含め、当局の判断で課徴金額を変えられるような仕組みは初めてである。
仕組みの内容としては、カルテルのやりとりをしたメール等の有力証拠を提出したり積極的に社内調査をしたりすれば、公取委の判断で課徴金を安くし、反対に証拠を隠滅したり、従業員同士で口裏を合わせたりする悪質な行為が明らかになれば課徴金を増やす方法などが検討されている。
公正取引委員会が参考にするのはEUの制度だ。欧米に動きを合わせる背景には、企業活動の国際化に伴い、カルテルなどの証拠が集めにくくなっている事情がある。企業の海外拠点に存在する証拠は、公取委の調査権限が及ばないためだ。公取委は海外当局との間で互いに証拠を融通しあう協定の締結も急いでいるが、現時点ではオーストラリアとの間でしか結んでいない。
近年、カルテルの決定的証拠のほとんどが電子メールとなり、企業内の膨大なデータベースから証拠を探し出すためにも企業の協力は不可欠だ。調査の際に企業の協力を求めるには、どのような協力をすれば課徴金を減らしてもらえるか、課徴金を減額する際の考慮要素を明らかにするなどの企業に対する配慮が必要になるだろう。今後の制度見直し作業では、調査の際に企業に積極的に協力してもらうため、制度の透明性確保が課題になる。
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