「良品計画」が「カインズ」を提訴、不正競争防止法について
2016/09/21 コンプライアンス, 不正競争防止法, 小売
はじめに
生活雑貨ブランド「無印良品」を展開する良品計画(東京都)が自社の販売する金属製収納棚に類似する商品を販売し営業上の利益を侵害しているとしてホームセンター大手カインズ(埼玉)を相手取り販売差止を求めて提訴していることがわかりました。模倣品等の販売を規制する不正競争防止法について見ていきます。
事件の概要
良品計画は1997年から「ユニットシェルフ」と呼ばれる金属製の収納棚を販売してきました。この製品は棚の四隅を2本ずつ計8本のポールで支える独特の形状をもっておりニューヨーク近代美術館で展示されるなど国内外で高い評価を得ているとのことです。一方のカインズホームもほぼ同様の形状をした「ジョイントシステムシェルフ56」と呼ばれる金属製収納棚を販売しておりました。カインズホーム側の製品は良品計画のものとほぼ同等の形状・性能ですが相当低廉な価格設定となっておりました。一般ユーザーからもカインズホームのものは無印良品のものと似ていて安いと評価されているとのことです。良品計画は自社製品との混同のおそれがあるとして不正競争防止法に基づき差止を求めて提訴しました。
不正競争防止法による規制
自社が開発し、製造・販売する商品と類似する商品を他社が販売している場合の対処法としてまず考えられるのが意匠権に基づく差止請求です。しかしこれは意匠法に基づき特許庁に意匠登録をしていなければできません。特許や意匠、商標権等を取っていない場合に考えられる方法が不正競争防止法による差止請求です。不正競争防止法は事業者間の不正な競争を防止することによって国民経済の健全な発展を目的としております(1条)。ここに言う「不正競争」とは本件のような模倣品の製造販売や営業秘密に関する不正行為等であり2条1項各号に列挙されております。模倣品に関しては1号から3号までに規定されておりますが、本件のような類似品については3号に規定されております。「不正競争」によって営業上の利益が侵害された場合または侵害されるおそれがある場合には侵害の差止及び製品の廃棄等を求めることができ(3条)、損害の賠償を求めることもできます(4条)。
3号要件
不正競争防止法2条1項3号によりますと「他人の商品の形態」を「模倣した商品」を「譲渡」等することと定義しております。そして同4項では「商品の形態」について、「需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識することができる商品の外部及び内部の形状並びにその形状に結合した模様、色彩、光沢及び質感をいう。」としています。また「模倣」についても同5項で「他人の商品の形態に依拠して、これと実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいう。」としています。その種類の製品が通常有する形態については、ここに言う商品の形態に入りません。また意図的に同一の形態の商品を作り出さなければ模倣にも該当しません。つまり通常の形態を超えた特徴的な形態のものを意図的に模倣した場合に「不正競争」に該当することになります。
適用除外について
19条1項5号イには「日本国内において最初に販売された日から起算して三年を経過した商品について」は適用除外とする規定が置かれております。これは平成17年改正前の3号括弧書きに規定されていた保護期間を適用除外として規定し直したものです。通常商品のモデルチェンジのサイクルがおおむね3年程度であることから、3年経過すれば保護すべき価値は減退していると考えられる点に鑑みた規定です。「最初に販売された日」とは裁判例によりますと、商品の形態が確認できる状態での販売のための広告活動や営業活動を開始した日とされております。この適用除外該当性については差止請求の被告側が主張立証することになります。
コメント
本件でカインズホームが販売している収納棚は無印良品のものと同様に4隅に2本ずつのポールで支えられた形状をしております。隅の支柱は通常の収納棚では1本ですが、これが2本並んだ形状になっており特徴的であることから「通常有する形態」を超えたものと判断し得ると言えます。そしてこの無印良品の製品に依拠して意図的に同一の形態のものを製造販売したと言えるかが焦点となると考えられます。被告カインズホーム側としては支柱の本数は通常有する形態の範囲内であること、また似通っていてもそれは意図したものではなく偶然そうなったものであるとの反論が考えられます。また日本国内で最初に販売されてから3年が経過しており適用除外であるとの立証もあり得るでしょう。このように類似品・模倣品が販売されている場合には不正競争防止法による差止、賠償請求による対処方法が考えられます。また逆に差止請求を受けた場合には以上のような防御を展開できます。しかし不正競争防止法での攻防よりも要件、保護期間の点で意匠権による攻防のほうが有利であることからできるだけ意匠登録を考える方向で事前に対処しておくことが重要と言えるでしょう。
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