札幌高裁、税額算定につきマンション内にある事務所を住居と別々に評価
2016/09/24 不動産法務, 税法, 住宅・不動産
はじめに
マンション内にある事務所の固定資産税の算定方法を巡って、事務所を所有する不動産会社が、事務所が住居より高く課税されるのは不当であるとして、市に過大徴収分等の返還を求めて争った訴訟の9月20日付けの控訴審判決で、札幌高裁は、建物全体を住居とみなした一審判決を取り消し、事務所部分を区別した札幌市の算定方法を適法と認めた。今回は、この事案を基に、固定資産税に関する住居と事務所の取扱い等を概観してみたいと思う。
事案の概要
マンション1階の事務所用物件部分を所有する原告は、札幌市長により決定された当該マンションの価格が地方税法352条1項に反して違法であるなどと主張して、裁決行政庁である札幌市固定資産評価審査委員会がした当該価格の登録についての原告による審査の申出を棄却する旨の決定の取消しを求めるとともに、国家賠償法1条1項に基づき、被告札幌市に対して約35万円及び被告北海道に対して約57万円並びに遅延損害金の支払を求めた事案である。
固定資産税(地方税法352条1項)
1.概要
固定資産税とは、毎年1月1日(賦課期日)現在の土地、家屋及び償却資産(「固定資産」という)の所有者に対し、その固定資産の価格を基に算定される税額をその固定資産の所在する市町村が課税する税金をいう。固定資産税の計算は、固定資産税の評価額(課税標準額)×1.4%(標準税率)で行われる。 課税標準額は、各市町村長(東京都23区では都知事)が総務大臣によって決められた固定資産評価基準を基に算定する。ただし、専用住宅の土地に関しては例外的な措置が設けられ、一部を店舗など居住用以外に使用している割合によっては、取扱いが異なっている。
2.固定資産税の軽減措置
(1)専用住宅の土地
専用住宅の土地とは、主に人の居住を目的としている建物のために使用されている土地をいう。専用住宅の土地として認められるのは、建物の総面積の10倍までである。住宅やアパートなどの敷地、庭、駐車場などがこれにあたる。人の居住を目的としている部分が建物の総床面積の4分の1以上でない場合には、専用住宅の土地とは認められないので、注意が必要である。また、住宅に該当しないのは、店舗、工場、事務所、旅館、倉庫などとして使用されている建物である。
専用住宅の土地については、①200㎡以下の部分に関しては6分の1、②200㎡を越える部分に関しては3分の1、という固定資産税の軽減措置が設けられている。
(2)併用住宅の土地
併用住宅の土地とは、建物の一部を居住目的で使用している土地をいう。今回のように、マンションの1階部分にスーパーやコンビニなどが入っている場合がこれにあたる。事務所と住宅が併用されている場合には、以下のような固定資産税の軽減措置となる。
①5階以上の耐火建築物の場合
・事務所の総床面積が4分の1未満の場合→専用住宅の土地と同じ軽減措置が適用
・事務所の総床面積が4分の1以上2分の1未満の場合→その土地の4分の3に軽減措置が適用
・事務所の総床面積が2分の1以上4分の3未満の場合→その土地の2分の1に軽減措置が適用
②4階以下の耐火建築物や耐火建築物以外の場合
・事務所の総床面積が2分の1未満の場合→その土地に軽減措置が適用範囲
・事務所の総床面積が2分の1以上4分の3未満の場合→その土地の2分の1に軽減措置が適用
※事務所の総床面積が4分の3以上の場合→①又は②の軽減措置の適用外
※敷地面積が建物の床面積の10倍を超えている場合→10倍の床面積の部分に対して、①又は②の条件に沿った軽減措置の適用
【固定資産税】知っておきたい店舗の併用割合による税額の違い
建物の種類で土地の固定資産税額は変わるのですか
(3)軽減措置を受けるためには
専用住宅の土地と新築住宅の建物に対しては、特に申請しなくても市区町村が軽減措置の手続をとってくれる。
しかし、建て替えのために住宅用家屋を取り壊し、同じ場所に住宅用家屋を新築する予定であるが、1月1日時点では建物が存在しない場合、以下の要件を満たすものについて、軽減措置を受けることができる。
①その年の前年度の1月1日において住宅用地であったこと
②住宅の新築が建替前の住宅の敷地と同一の敷地において行われること
③その年の前年の1月1日における建替前の住宅の所有者と建替後の住宅の所有者が同一であること
④その年の1月1日において、次のいずれかであること
(イ) 住宅の新築工事に着手していること
(ロ) 住宅の新築について建築基準法の確認済証の交付を受けており、かつ、直ちに新築工事に着手するものであること
(ハ) 住宅の新築について、確認申請を提出しており、確認済証交付後直ちに新築工事に着手すること
なお、上記の適用を受けるためには申請をするなどの所定の手続きが必要となる。
3.固定資産税の家屋の評価額
固定資産税の家屋の評価額は、再建築価格方式という方法で計算されている。再建築価格方式とは、評価対象となった家屋と同一のものを、評価の時点においてその場所に新築するとした場合に必要とされる建築費から評価額を算出する方式をいう。家屋の評価は、総務省が定めた固定資産評価基準によって算定される。これで算定されるのが再建築評点数である。
この再建築評点数に経年減点補正率(家屋の建築後の年数の経過によって生じる損耗の状況による減価を示したものをいう)と1点当たりの価額(1円×物価水準による補正率×設計管理費等の補正率をいう)を乗じて現在の評価額が計算される。
固定資産評価基準
経年減価補正率表(pdf)
まとめ
第一審である札幌地裁は、区分所有建物の固定資産税額については、事務所部分と住居用部分に区分した上で異なる経年減点補正率を適用して算定するのではなく、建物全体に単一の経年減点補正率を適用して建物全体を評価した上、共有持分割合等の補正割合に応じて按分すべきであると判断して、過大に納付された固定資産税等相当額についての国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求を認容している。
しかし、控訴審である札幌高裁は、地方税法における固定資産の評価基準については、市町村長等に一定の裁量が与えられているとし、区分ごとに用途が異なる等の客観的状況から、本件の建物につき、事務所部分と住居部分に区分して異なる経年減点補正率を適用すべきであると判断して、損害賠償請求を棄却した。
札幌高裁は、本件の建物が専用住宅の土地と併用住宅の土地が構造上明確に分けられる物件であり、固定資産税の軽減措置に関するマンションの区分所有者間での税負担の公平を図るためにも、事務所部分と住居部分に異なる経年減点補正率を適用することに合理性があると判断したものと考えられる。原告は、最高裁に上告する予定とのことのようであるが、今回の事案と同様に、マンションの1階部分に事務所等を構えている場合、これを機会に自社の事務所等が軽減措置の対象となるのか、対象になるとして、その措置を受けるためには所定の手続を行う必要があるのか、等を確認して、節税対策ができないかを検討してみてはいかがだろうか。
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