消費者団体がNTTドコモを提訴(消費者契約法10条)
2017/01/26 コンプライアンス, 消費者取引関連法務, 消費者契約法, その他
事案の概要
1 事案の概要
NTTドコモの通信サービス契約の約款が、「ドコモの一方的な意思表示で無制限に変更でき、消費者契約法に違反している」として、埼玉県の消費者団体(NPO法人「埼玉消費者被害をなくす会」)がNTTドコモを相手取り、こうした約款による契約の差し止めを求める訴訟を25日に東京地裁に提訴しました。
埼玉消費者被害をなくす会
2 差止請求対象の条項
埼玉消費者被害をなくす会が、差止請求対象としている条項は主に約款変更権の定めに関する条項についてです。以下が対象となった条項です。
「Xiサービス契約約款」及び「FOMAサービス契約約款」第2条
「(約款の変更)
第2条 当社は,この約款を変更することがあります。この場合には,料金及びその他の提供条件は,変更後の約款によります。」
【埼玉消費者被害をなくす会の主張】
「当該事業者が使用する無制限な約款変更権の定めは、利用者である一般消費者にとっては「消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」であり、消費者契約法第10条が適用され、無効である。」
3 消費者契約法
(1)消費者契約法とは
消費者契約法は、消費者と事業者の情報力・交渉力の格差を前提とし、消費者の利益擁護を図ることを目的として施行されました。
また、平成18年の法改正により消費者団体訴訟制度が導入されました。
消費者庁
消費者契約法(条文)
(2)消費者団体訴訟制度とは
内閣総理大臣が認定した消費者団体が、消費者に代わって事業者に対して訴訟等をすることができる制度をいいます。
なお、埼玉消費者被害をなくす会は、消費者全体の利益擁護のために差止請求権を適切に行使することができる消費者団体として、内閣総理大臣の認定を受けています。
消費者団体訴訟制度
4 消費者契約法10条
(1)消費者契約法10条とは
消費者契約法10条は消費者の利益を一方的に害する条項を無効とすることを定めています。
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第10条 民法 、商法(明治32年法律第48号)その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
(2)要件
消費者契約法10条は、①②の要件を満たす場合には該当する契約条項を無効とすると規定しています。
①前段要件
「民法、商法その他の法律の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項」であること。
② 後段要件
「民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するもの」であること。
そして、「消費者の利益を一方的に害する」とは,消費者契約法の目的(同法1条)等に照らせば,消費者と事業者との間の情報の質及び量,交渉力の格差を背景として,消費者が誤認又は困惑するような状況に置かれるなどして,消費者の法的に保護されている利益を,信義則に反する程度に,両当事者の衡平を損なう形で侵害することをいうものと解されるべき」(前掲最判平成23年7月15日)とされています。
最判平成23年7月15日
(3)消費者契約法の改正
消費者契約法の一部を改正する法律は、平成28年6月3日に公布されました。消費者契約法10条前段に「消費者の不作為をもって当該消費者が新たな契約の申込み・承諾をしたとみなすもの」が追加されました。この法律は、平成29年6月3日から施行されます。
(消費者の利益を一方的に害する条項の無効)
第10条 消費者の不作為をもって当該消費者が新たな消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたものとみなす条項その他の法令中の公の秩序に関しない規定の適用による場合に比して消費者の権利を制限し又は消費者の義務を加重する消費者契約の条項であって、民法第1条第2項に規定する基本原則に反して消費者の利益を一方的に害するものは、無効とする。
消費者契約法の一部を改正する法律(消費者庁)
5 判例(生命保険契約約款の保険料不払失効条項)
保険会社との間で保険契約を締結した保険加入者が、当該保険契約における失効約款(月払の保険料が残高不足で期限内に引き落されない場合には保険契約は失効する)は消費者契約法10条にあたるので無効であるとして、保険契約の存在確認を請求した事例があります。
それに対して、最高裁は本件失効約款は消費者契約法10条後段に該当しないとして東京高裁判決を破棄し、差し戻しました。
国民生活センター解説
6 コメント
消費者契約法10条に違反しても罰則はありません。しかし、同法10条の違反により約款が無効となると思わぬ不利益を被る可能性があります。例えば約款が消費者契約法10条に違反し無効となると今まで受領していた料金の返金が必要になったりします。
また、消費者契約法に違反していたとなればそれが報道される等により世間から信頼を失う結果にもなりかねません。その場合顧客も失う可能性があります。
したがって、法務担当者は自社の約款が消費者契約法に反していないか確認し、違反の疑いがある約款があれば、他の事業部との連携を図りながら修正することが求められます。
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