「ほっともっと」元店長が支払請求、懲罰的付加金とは
2017/02/21 労務法務, 労働法全般, サービス
はじめに
弁当店「ほっともっと」の元店長である30代女性が運営会社「プレナス」(福岡市)に対し未払い賃金511万円と付加金約200万円の支払を求めていた訴訟で17日、静岡地裁は未払い分160万円の支払を命じていました。今回は未払い残業代の支払を求める際に請求できる付加金制度について見ていきます。
事件の概要
判決文によりますと、原告の女性は2012年7月に「ほっともっと」運営会社のプレナスに正社員として入社しました。4ヶ月間の研修を経て同11月に静岡県内の店舗に店長として配属されました。アルバイトのシフト管理や突発的なトラブル対応等で多い月で106時間を超える時間外労働を行っておりました。女性は翌2013年9月から体調を崩して休職、2014年10月に退職しました。同社では就業規則で店長を労基法上の「管理監督者」に該当するとしており残業代は支払われておりませんでした。女性は2014年5月に静岡地裁に労働審判を申立て約120万円の支払が認められましたが同社が異議申し立てを行い訴訟に移行しておりました。
労基法上の規制
使用者が労働者に時間外労働や休日労働を行わせた場合、労働基準法では割増賃金の支払いを義務付けております。月の時間外労働が60時間位内の場合は通常賃金の25%~50%の割増賃金を、60時間を超える場合には50%以上の割増賃金を支払う必要があります(37条1項)。しかし「監督若しくは管理の地位にある者」はこの割増賃金の規定に加え、労働時間(32条)、休憩(34条)、休日(35条)の規定が適用除外となります(41条2号)。この管理監督者に該当するかについては他でも取り上げられておりますので、ここでは簡単に触れるだけにしておきます。判例上①経営方針に参画し労務管理上の指揮監督権限を有し②出退勤等の勤務時間について裁量が有り③賃金等について一般従業員よりも有利な待遇を受けていることが要件とされております。
懲罰的付加金制度について
労基法114条によりますと、裁判所は20条、26条、37条、39条7項の規定違反があった場合、労働者の請求によって「未払金のほか、これと同一額の付加金」の支払を命じることができるとしています。労基法に定められる解雇予告手当、休業手当、時間外労働割増賃金、有給休暇賃金を支払わなかった場合、その請求に際して裁判所は倍額にして支払を命じることができるというわけです。サービス残業や割増賃金不払いを防止し労働者を保護することが趣旨であると言えます。なお、この付加金請求は違反のあった時から2年以内に請求しなければなりません(同但書)。
付加金が認められる場合
この付加金は労働者が裁判所に未払金支払を求めて訴えた場合に裁判所の判断で支払を命じることができます。つまり裁判所の裁量に任されていると言えます。どのような場合に支払が認められるかについては現在のところ最高裁判例はありませんが下級審裁判例ではおおむね、使用者の違反の態様や悪質さ、労働者の被害の程度等を総合的に判断して違法性が強い場合に認めているようです。なお条文上は「裁判所」が命じることができると規定していますが、労働審判委員会が裁定する労働審判においても請求できると解されております。これは上記の2年以内という制限があり、この制限は時効ではなく中断のできない除斥期間であると解されているためです。
コメント
本件で静岡地裁の関口裁判長は「アルバイトの採用などでも限定的な権限しかなく、店舗運営は本社のマニュアルに従っていた」とし、労働時間についても「自由裁量で決めることができたとは言えない」と指摘しました。経営に参画し、労務管理の監督権限があったとは認められず、出退勤の自由もなく、収入も他の従業員と変わらないことから管理監督者には当たらないと判断されたものと言えます。これにより未払い割増賃金として160万円の支払を命じましたが、付加金については認めませんでした。「法定外労働は40~70時間程度で、著しく多かったわけではない」として違反の程度が強く悪質なものとまでは言えないと判断されたものと思われます。以上のように労基法の懲罰的付加金制度は実際の損害金を倍にして請求できることから日本の賠償制度としてはかなり異例の制度となっております。アメリカでは相当高額な懲罰賠償が認められることで有名ですが、一般的に日本は実損以上の賠償は認めてきませんでした。この制度は裁判所の判決や決定にまで至れば付加金が課されるかもしれないという圧迫を加えることで、その前に和解させる効果があるとも言われております。労働審判等が申し立てられた場合にはその点も考慮して対応することが重要と言えるでしょう。
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