保険でリスク軽減、M&Aにおける表明保障条項について
2017/03/03 戦略法務, M&A, 会社法, その他
はじめに
日経新聞電子版は2月27日、M&Aでの表明保障条項違反による損害賠償を保険でカバーすることが近年注目されている旨報じました。M&Aでは一般的に使用される表明保障条項ですが、会計不正等により買収側が巨額の損害を受けることがあります。今回は表明保証条項について見ていきます。
表明保障条項とは
企業買収等のM&Aを行う際には買収を行う側は相手企業の業績や資産状況、負債等の調査(デューデリジェンス)を行います。しかし期間や人員等には限りがあり、買収後に損害を被らないように完全に調査することは不可能といえます。そこで買収を受ける側が一定の事実につき真実でありかつ正確である旨を相手方に表明して保障します。これを表明保障条項と言います。もともと欧米の企業のM&Aで利用されていたものですが、2000年頃から日本でも取り入れられるようになったと言われております。現在ではM&Aの際にはほぼこの表明保障条項が設けられているとされます。
具体的記載事項
表明保証条項では買収を受ける側が買収側に対して、資産状況や負債、会計等に問題がないことを表明し保障するものであることから次のような項目が記載されることになります。
①財務諸表が会計基準に則って適法に作成されていること。
②財務諸表、会計帳簿に虚偽記載がないこと。
③明らかにされていない簿外負債等が存在しないこと。
④引き渡す事業、財産等が被買収企業の所有であること。
⑤訴訟・紛争を抱えていないこと。
⑥当局から処分、指導をうけていないこと。
⑦その他提供した情報に虚偽がないこと。
以上のような内容を盛り込むことが一般的です。そして「表明し保障した事項が真実又は正確でなかったことが判明した場合、これによって相手方が被る損害を補償する責任を負う」という文言を入れることになります。
違反した場合
表明補償条項は上記のとおりもともと欧米の概念であることから日本においては直接規律する法令があるわけではありません。その法的性質については争いがあり、瑕疵担保責任の瑕疵の範囲を拡大したものとする瑕疵担保特約説と本体の契約とは別個の従たる損害担保契約であるとする説があります。いずれにおいても表明者の過失とは無関係に賠償請求ができる無過失責任と考えられております。違反した場合について裁判例では相手方が悪意の場合は責任を負わないとしつつ、一般論として相手方が「わずかな注意を払いさえすれば・・・表明保障条項に違反していることを知り得たにもかかわらず漫然これに気づかないまま・・・契約を締結した場合・・・公平の見地に照らし悪意の場合と同視」するとしています。つまり違反があっても相手方が悪意重過失の場合は責任を負わないとしています。
コメント
M&Aのデューデリジェンスの際には判明しなかった不正会計等によって買収後に損害を被ることがあります。このような場合、買収側が相手側の不法行為責任や債務不履行責任を立証していかなければなりません。こういったリスクを担保するためにこのような条項を設ける手法が活用されております。違反があれば即賠償を求めることができるというわけです。しかし上記裁判例のように買収側に重過失が認められた場合には免責されてしまいます。近年東芝の巨額の不正会計等、M&Aに絡む不祥事も多発しております。買収に際しては表明保障条項だけではリスクを担保しきれない場合もあると言えます。そこでこうした損害のリスクを保険によって担保する動きがでてきております。一般的には買収する側が利用することが多いと言われており、これにより安心して買収に乗り出せるというメリットがあります。日経新聞によりますと、保険料は通常数千万円となりますが、これにより買収額の2割程度の額が担保されるとのことです。M&Aだけでなく売買契約等にも利用されるようになった表明保障条項。合わせて保険の利用も検討することが重要と言えるでしょう。
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