「や台ずし」のヨシックスが「磯丸すし」を提訴、不正競争防止法について
2017/03/17 コンプライアンス, 広告法務, 不正競争防止法, 外食
はじめに
「や台ずし」等を運営する居酒屋チェーン「ヨシックス」は16日、「磯丸すし」を運営する「SFPダイニング」に対し看板等の外観が似ているとして外観の使用差止と約471万円の賠償を求め名古屋地裁に提訴しました。今回は不正競争防止法による規制について見ていきます。
事件の概要
訴状等によりますと、居酒屋チェーンヨシックスは「や台や」「や台ずし」「ニバチ」等の屋号で居酒屋を全国展開しております。その中でも「や台ずし」は全国で140店舗を営業する主力事業となっているとのことです。一方「磯丸水産」等の居酒屋を展開するSFPダイニングは2016年11月から「磯丸すし」の名で同様の格安寿司チェーンの運営を開始しました。問題となっている「や台ずし」の外観は木製の看板に毛筆で店名を表示し、その両サイドに寿司ネタと価格を表示した板を10枚程度並べて掲げられております。その下には暖簾と提灯が下げられており、戸を開けて店内に入る仕組みとなっております。他方「磯丸すし」の店舗の外観も板の材質や形状が異なるだけで、中心の大きな板に店名を配置し、両サイドに寿司ネタと価格を表示する形態は同様で、その下にはやはり引き戸の前に提灯と暖簾を配置しております。ヨシックスは外観が似ているとして差止と賠償を求め提訴しました。
不正競争防止法による規制
不正競争防止法では類似商品や商品の販売主体を誤認させる態様での事業を「不正競争」として禁止しております(2条各号)。商品や販売方法等は本来多大な費用と労力によって開発されるものであり、他者の開発に労せずしてタダ乗りすることを禁止し、公正な競争を促進することが目的です。2条には「不正競争」として1号から16号まで列挙されておりますが、模倣営業に関するものとしては商品等表示混同惹起行為(1号)、著名表示冒用行為(2号)、商品形態模倣行為(3号)が挙げられます。この中でも店舗の外観について該当し得るものとして1号と2号について以下見ていきます。
商品等表示混同惹起行為とは
2条1号によりますと「他人の商品等表示」として「需要者の間に広く認識されているものと同一若しくは類似の商品等表示」を使用し「他人の商品又は営業と混同を生じさせる行為」が該当します。ここに言う「商品等表示」とは商品そのもの形態だけでなく他者の氏名や称号、看板、そして店舗の外観も含まれるとされております。その表示が需要者の間で広く認識されている必要があります(周知性)。そのような表示と同一であるかまたは類似した表示を用いて(類似性)、需要者に混同を起こすおそれを生じさせる場合に本条1号の要件を満たすことになります。混同要件について裁判例では両者を比較して需要者の目を惹く特徴的な部分や主要な部分が同一または著しく類似していること、利用者が当該他人の店舗であると誤認する客観的な恐れがあることとしています(大阪地裁平成19年12月4日)。
著名表示冒用行為とは
2条2号によりますと「自己の商品等表示」として「他人の著名な商品等表示」と「同一若しくは類似のもの」を使用することが該当します。ここにいう「著名な」とは1号の周知性よりも広いものと解されております。1号の周知性はその商品の需要者の間で認識されていればよく、一般に知られていることまでは必要としません。一方本号の「著名な」は特定の需要者間だけでは足りず、全国的に広く一般に知れ渡っている必要があります。実際に裁判になった事例としては「シャネル」や「J-phone」「ディズニーランド」「アリナミン」といったものが挙げられます。コーラやビール、寿司、ドリンクといった慣用表示や普通名称は該当しません。
違反した場合
これらに該当する行為を行われた場合は、当該行為の停止または予防を請求することができます(差止請求3条)。またそれによって損害が生じた場合は「故意又は過失」のある相手方に対し賠償請求をすることができます(4条)。なお損害額については当該侵害行為がなければ販売できたであろう数量の利益に該当する分が損害であると推定されます(5条)。また罰則として5年以下の懲役、500万円以下の罰金又はこれらの併科が課される場合もあります(21条2項1号、2号)。
コメント
本件で「や台ずし」は全国的に広く一般に知られているとまでは言えないと思われることから1号の商品等表示混同惹起行為の該当性が問題となると考えられます。「や台ずし」は回転寿司とは違った低価格な居酒屋風寿司店として需要者の間で広く認識されているものと評価することは可能であると思われます(周知性)。外観については両者は看板の素材や形状、文字のフォントに違いはあるものの中心に大きな店名と両サイドの寿司ネタと価格表示の板を並べた構成は需要者の目を惹く主要な部分が類似していると言えます。これにより需要者は「磯丸すし」を「や台ずし」であると誤認して利用する可能性は有ると言えることからヨシックスの主張が認められう可能性は有ると言えます。店舗外観についての不正競争防止法の事例は現在までそれほど多くはありませんが、裁判所は両者を文字の大きさやフォント、看板の素材、配置、全体としての印象等、かなり細かく詳細に比較して判断しています。他社の既存の店舗に似た店舗を開設する場合にはこれらに留意して、消費者から見て類似していないか、混同を生じさせないかに注意することが重要と言えるでしょう。
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