労基署が「サイバード」に是正勧告、裁量労働制について
2017/09/13 労務法務, 労働法全般
はじめに
渋谷労働基準監督署は先月14日、ゲーム開発会社「サイバード」に対し、同社で適用されていた裁量労働制が無効であるとして是正勧告を出していたことがわかりました。労基署が裁量労働制を無効として是正勧告を出すのは異例とのことです。今回は秋の臨時国会でも適用対象拡大の審議が行われる見通しの裁量労働制について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、昨年同社に専門職として入社した女性従業員は1日10時間8分のみなし労働時間で1日あたり2時間8分、1月あたり45時間の時間外労働として裁量労働制の適用のもとで業務を行っておりました。しかし実際には、勤怠記録に残っている分だけで月約70~80時間、多い月で100時間を超える時間外労働を行っておりました。また裁量労働制にもかかわらず出社時間は決められており、上司の指示で朝8時までの徹夜業務を行うこともあったとのことです。同社はスマートフォン向けのゲームを制作するIT企業であり、女性従業員の業務内容はゲームの広報業務、版権処理、イベント開催、ノベルティ企画などであったとされております。渋谷労基署はこれらの業務実態から当該女性従業員には裁量労働制が適用とはならないとして是正勧告を行ないました。
裁量労働制とは
裁量労働制とは、労働基準法で定められている「みなし労働時間制」の一種です。みなし労働時間制とはあらかじめ一定の時間を定めておき、実際にはその時間分働いていなかったとしても、その時間分働いたとみなして賃金計算を行う労働形態です。高度の専門性や裁量性を有する研究・開発業務など通常の勤怠管理になじまない業種に特に認められた制度と言えます。労働者は自分の判断のもとで労働を行うことができるシステムです。裁量労働制を採用するためには使用者と労組、労組が無い場合は労働者の過半数を代表する者と労使協定を締結して労基署に届け出る必要があります(労基法38条の3)。また裁量労働制であっても時間外労働をさせる場合には当然にその旨の労使協定が必要となります(36条、「36協定」)。つまり1日8時間を超える時間をみなし労働時間として設定する場合ということです。
対象となる業種
裁量労働制が適用となる業種は労働基準法38条の4や労働基準法施行規則24条の2の2第2項各号、厚労大臣告示によって定まっております。大きく分けて「専門業務型」と「企画業務型」に分かれており、企画業務型は会社の中枢で企画の立案や新事業の検討などを行うことを業務とする場合です。そして専門業務型は以下に挙げるものとなっております。
①新商品、新技術の研究開発業務
②情報処理システムの分析または設計業務
③新聞等の取材、編集業務
④デザイナー業務
⑤放送、映画のプロデューサー、ディレクター業務
⑥広告、宣伝におけるコピーライター業務
⑦システムコンサルタント業務
⑧インテリアコーディネイター業務
⑨ゲームソフト創作業務
⑩証券アナリスト業務
⑪金融商品開発業務
⑫大学の研究業務
⑬公認会計士、弁護士、建築士、税理士、不動産鑑定士、弁理士、中小企業診断士の業務
コメント
本件でサイバードはゲームソフト創作業務を対象業務とする専門業務型裁量労働制を採用しておりました。しかし女性従業員が行っていた業務は広報業務やイベント企画といったものでゲームソフト開発には携わっておりませんでした。会社自体がゲームソフト開発を行っていても、当の従業員がそれを行っていなければ適用対象とはなりません。労基署はこの点から裁量労働制の無効を言い渡しました。また女性従業員自身に勤怠に関する裁量も与えられておらず、みなし労働時間を大幅に超過する時間外労働も問題視されたものと考えられます。以上のように裁量労働制の対象業務の判断は厳格で、会社がその業務を行っているからその従業員も包括的に適用となるというわけではありません。裁判例でもシステムエンジニアとプログラマの区別なく業務を行わせていた事例で違法とされております(京都地判平成23年10月23日)。また税務書類の作成が「税理士の業務」に該当しないとされた例もあります(東京地判平成25年9月26日)。このように裁量労働制はあくまで専門性の高い業種ゆえに認められた例外であることからその採用は慎重に行う必要があります。従業員の実際に従事している業務が数種類に及ぶ場合や、実働時間がみなし労働時間を大幅に超える場合には労基署に違法であると判断される可能性が高いといえます。対象業務の内容と制度趣旨を正確に把握して採用を検討することが重要と言えるでしょう。
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