企業が成長するための労働紛争対策の必要性
2017/09/22 労務法務, 労働法全般
1.はじめに
東京都労働委員会は、8月23日、「アリさんマークの引越社」で知られる引越社関東(東京)が、労働組合に加入した男性社員(36)を営業職から単純作業のシュレッダー係に配置転換したのは、組合員であることを理由とした不利益取扱いにあたり、不当労働行為と認める救済命令を出しました。ところが、同社はかかる命令を不服とし、不服申し立て期限の9月7日までに中央労働委員会に不服を申し立てました。両者の紛争は、依然続いています。このように両者の関係がこじれないようにするためには、どのような対策が取れるか考えていきたいと思います。
2.不当労働行為救済制度とは
不当労働行為救済制度は、憲法第28条で保障された団結権等の実効性を確保するために、労働組合法(以下「労組法」)に定められている制度です。労組法第7条に掲げる使用者の各行為を「不当労働行為」として禁止し、使用者に当該行為があったと思われる場合、これらの行為を正してもらうために、労働者や労働組合は、労働委員会に対して救済の申立てを行うことができます。
3.不利益取扱いとは
労組法第7条第1号は、使用者が、労働者に対し、労働組合の組合員であることや労働組合の正当な行為等をしたことをもって、当該労働者を解雇し、その他これに対して不利益な取扱いをすることを禁止しています。不利益取扱いの種類・態様は、法律行為、事実行為(懲戒、解雇、配転、出向、転籍、昇給させない、仕事を与えない、残業をさせないなど)であると否とを問わず、さまざまなものがあります。以下、不利益取扱いに該当するモデルケースを見ていきたいと思います。
4.不利益取扱いに該当するモデルケース
(1) 組合活動を理由とした配置転換の撤回を求めたケース
組合は、会社が組合の分会書記長を他の工場に配置転換したのは、分会の中心的活動家である書記長を排除し、組合を弱体化するために行われた不当労働行為であるとして、書記長の元職場への復帰を求めて、労働委員会に救済を申し立てました。これに対して、会社は「配置転換は業務上の必要性から行ったものである。」と主張しました。これについて、労働委員会において審査した結果、分会書記長の配置転換には合理的理由がなく、組合活動を嫌悪して行われた不当労働行為であると判断し、会社に対して、配置転換を撤回し、分会書記長を元の職場に復帰させるよう命令しました。
(2)組合員であることを理由とする昇格差別の是正を求めたケース
組合は、非組合員に比べて、組合員の昇格が遅れているのは、組合員であることを理由とする不利益取扱いであるとして、公平な昇格の実施と昇格差別により生じた非組合員との賃金格差分の支払いを求めて、労働委員会に救済を申し立てました。これに対して、会社は、「昇格は、勤務成績に応じて公平に行っており、差別扱いはしていない。」と主張しました。これについて、労働委員会において審査した結果、会社の行った組合員に対する昇格差別には、合理的な理由が認められず、組合を嫌悪して行われた不当労働行為であると判断し、会社に対して、組合員に対する公平な昇格の実施と昇格差別により生じた賃金格差分の支払いを行うよう命令しました。
(3)執行委員長に対する懲戒解雇の撤回を求めたケース
組合の執行委員長は、3年前に酒気帯び運転で検挙されたことが発覚したとして会社から懲戒解雇の処分を通告されました。かかる通告に対して、組合は、会社が日頃から組合を嫌悪しており、組合の活動が活発化してきたことから、組合の中心的活動家である執行委員長を、たまたま発覚した酒気帯び運転の事実にこと寄せて、解雇することにより、組合から排除し、組合の弱体化を図ろうとした不当労働行為であるとして、解雇撤回等を求め、労働委員会に救済を申し立てました。これに対して、会社は、「就業規則に基づき適正に処分したものであり、不当労働行為に当たらない。」と主張しました。これについて、労働委員会において審査した結果、就業規則には解雇事由として「酒気帯び運転」が規定されていますが、これまで事故等を伴わない同様のケースでは、重くとも出勤停止処分にとどまっており、解雇された従業員がいないことが判明しました。加えて、会社の日頃からの組合に対する言動や態度などから、執行委員長に対する解雇が組合の弱体化を図る意思を決定的な動機として行われた不当労働行為であるとして、会社に対して、解雇を撤回し、執行委員長を元の職場に復帰させるよう命令しました。
5.コメント
本件のように、不当労働行為が認められ救済命令が出されても、会社がそれに対しさらに不服申立てをした場合、両者の争いは泥沼化しひいては紛争当事者だけでなく職場環境全体の悪化にもつながりかねません。また、上記モデルケース以外にも、妊娠・出産、育児休暇等を理由にして、会社が降格、減給、解雇等した場合なども不利益取扱いとなりうる問題であり、労働紛争はいついかなる場合に起きてもおかしくない状況と言えます。こうした労働紛争というのは、会社の成長に社内の法整備がついていけず、業務に対する意識が高い従業員から不満が起こり紛争につながるというケースがままあります。そうした業務に対する意識が高い従業員は、会社にとっても大きな財産であるため、紛争によりかかる従業員を失い、職場環境も悪化するというのでは、会社にとってマイナスでしかありません。したがって、会社の法務部としては、かかる労働紛争を避けるために労働条件を書面で明示するなどして未然の防止策を取ることが重要となります。もちろん、労働条件を書面に明示しただけで防げるものばかりではありませんが、従業員を雇用する入り口の段階で、きちんと労働条件を書面で明示し、相互に確認していれば、誤解から生じる労働紛争の発生を予防することができます。また、従業員に共通する労働条件については就業規則を作成し明示することで対応する必要があります。さらに、雇用しているうちに当初従業員に明示した労働条件が変わったり、会社の経営環境が変化することもあるかと思いますが、そういった場合に、どのように就業規則を解釈し適用していくのか、その運用も非常に重要になってきます。就業規則は、作成して終わりではなく、実態に即してその都度見直し、運用していかねばなりません。会社にとっても従業員にとっても働きやすい職場を作るため、あらゆる場面を想定した対策を考える必要があるように思います。
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