公益通報者保護法改正への動き
2018/02/14 コンプライアンス, 危機管理, 労働法全般, 法改正
はじめに
日経新聞電子版は13日、政府が公益通報者保護法に罰則を設けるなどの改正を行う検討に入った旨報じました。同法は公益通報を行った者に対する不利益取扱い等を禁じておりますが罰則等は定められておらず実効性が乏しいとされてきました。今回は公益通報者保護法の概要について見直します。
公益通報者保護法とは
公益通報者保護法とは、企業や行政機関が法令違反行為を行っているか、行っているおそれがある場合に公益目的をもって通報した者を保護し国民の生命、身体や財産、国民生活の安全等を保護することを目的とする法律です(1条)。一定の範囲の事項を通報対象事項とし、一定の相手方に対して行う通報を公益通報として保護しております。以下具体的に要件を見ていきます。
通報対象事項
同法で公益通報の対象となる事項は、個人の生命、身体の保護、環境保全、公正競争確保などにかかる法律に規定される罪の犯罪行為に該当する事実、またはこれらの法律に基づく処分に違反する事実が犯罪行為となる事実が挙げられます(2条3項1号、2号)。そして対象となる法律は、①刑法、②食品衛生法、③金商法、④JAS法、⑤大気汚染防止法、⑥廃棄物処理法、⑦個人情報保護法、⑧その他が挙げられます(同法別表)。その他の法令として政令で定めるものには労働基準法や労災法、独禁法など約150の法令が含まれております。対象法令は多いですが通報対象となるのは罰則の対象となる事実です。
通報先と保護要件
(1)労務提供先
通報先が労務提供先である場合に公益通報として保護される要件は、労務提供先に上記通報対象事実が生じているか又は、まさに生じようとしていると考えられる場合であることが必要です。
(2)処分勧告権限を有する行政機関
通報対象事項について処分権限を有する行政機関に通報する場合は、通報対象事実が生じ、または生じようとしていると信じるに足りる相当の理由があることが必要です。
(3)その他の外部者
マスコミ等その他外部の者に通報する場合は、上記に加えて内部通報では証拠隠滅のおそれがあること、人の生命身体等への急迫した危険があること、内部通報を行ったのに20日以内に調査を行う旨の通知がないこと等がある場合が挙げられます。
公益通報者の保護
上記要件を満たした公益通報を行った労働者に対しては、公益通報を行ったことを理由とする解雇、派遣契約解除が禁止されます(3条、4条)。また公益通報を行ったことを理由とする降格、減給その他の不利益な取扱も禁止されます(5条)。そして公益通報を受けた事業者はその事実の中止、是正等を行ない、または調査の結果その事実が無い場合はその旨を遅滞なく通報者に通知する努力義務が課されます(9条)。
コメント
公益通報者保護法は食品偽装問題などを受け、2004年に制定されました。しかし同法には罰則規定は無く、また同法を直接の根拠とする行政処分等の規定も存在せず、公益通報を行ったことを理由とする解雇等の不利益取扱を禁止するにとどまっております。それ故に実際に通報者が取りうる手段としては、事後的に民事訴訟によって解雇無効確認や損害賠償請求を行うしかありません。オリンパスの内部告発事件でも和解が成立し賠償金が支払われるまでに10年の歳月を要したと言われております。このように公益通報者保護法は実効性に乏しい法律と言われてきました。そこで現在消費者庁を中心として法改正の具体案をまとめ、来年1月の通常国会への提出を目指しているとのことです。それには新たに監督官庁による調査権限や是正勧告、公表や罰金と懲役の併科を含む罰則などが盛り込まれるのではないかと考えられます。これら公益通報者保護法の強化の動きを踏まえつつ、内部通報者の扱いを見直すことがコンプライアンス向上と企業イメージ保護に重要と言えるでしょう。
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