通販サイトで売主が商品を発送しないときの、プラットフォーム企業の責任
2019/06/25 コンプライアンス, 民法・商法
1 はじめに
近年プラットフォーマー企業の活動における社会的意義は重要性を増しています。
そこで、本記事ではプラットフォーマー企業の法的責任について考察します。
2 補足説明
プラットフォーマー企業とは、「第三者がビジネスや情報配信などを行う基盤として利用できる製品やサービス、システムなどを提供する事業者」を言います。(コトバンク)
例えば、アマゾンや楽天などの通販サイトなどです。
3 関連判例
(1) アマゾンなどの通販サイト等において売買契約で、売主が商品を発送しなかったり、商品に不具合があったりした場合、プラットフォーマー企業は買主に対し法的責任を負うのでしょうか。
プラットフォーマー企業と買主は契約関係にないため、プラットフォーマー企業は責任を負わないのが原則です。
もっとも、例外として、プラットフォーマー企業と買主間のサービス利用契約等に基づく債務不履行責任はありえます。
具体的には、サービス利用者に被害が生じないようにする構築義務などです。
(2) この点について、名古屋高裁平成20年11月11日判決があります。これは買主が代金を支払ったにもかかわらず、売主から商品の提供を受けられないという事案でした。この事案では、買主がプラットフォーマー企業に対し、詐欺被害の生じないシステムを構築する義務を十分に履行していなかったとして、債務不履行に基づき損害賠償を求めました。
ここにおける詐欺被害の生じないシステムについて、原告である利用者は仲立契約及び準委任契約に基づく善管注意義務として主張していました。
判決は、買主がエスクローサービスの利用を求めることができ、出品者がこれを拒絶すれば売買契約を締結しないことができるため、プラットフォーム会社で上記システムの構築義務はない、としています。エスクローサービスとは、物品の売買をする際に取引の安全性を保障するサービスをいい、商品が届くまで仲立人が代金を一時預かる措置などが挙げられます。
また、同様の詐欺被害があったことの注意喚起措置についても、詐欺的犯罪行為の発生頻度、発生割合を明らかにしても、利用者の詐欺被害を防止できる関係にない。
以上の理由から、プラットフォーム企業の損害賠償責任を認めませんでした。
(3) 上記のように、判例では売主が詐欺を行う場合、プラットフォーム企業の詐欺被害の生じないシステムを構築する義務の違反を認めませんでした。
しかし、判例では、「欠陥のないシステムを構築して、本件サービスを提供すべき義務の具体的内容は(中略)社会情勢、関連法規、システムの技術的水準、システムの構築及び維持管理に関する費用、システム導入による効果、システム利用者の利便性等を総合考慮して判断するべきである。」と述べており、一定の場合には、プラットフォーマー企業のシステム構築義務が認められる可能性があります。
例えば、商品に不具合がある場合や売主の債務不履行がある場合は、プラットフォーマー企業がサービス利用者に被害が生じないようにする義務が認められる可能性があります。
このような場合、サービス利用者の通報をもとに、トラブルを起こした事業所の過去の取引状況を公開したり、出品者のアカウント停止などをすることはシステム技術的には難しくないと思われます。
また、システムの構築・維持に当たってもそれほど高額な費用も掛からない思われますし、このようなシステムを導入した場合、悪徳な出品者を排除することができ、利用者が同様の被害を負わないようにする効果が期待できます。
そうすれば、利用者も安心してサイトを利用でき、利用者の利便性にも資すると考えられます。
判例の基準に従えば、プラットフォーマー企業が、利用者に損害を生じさせない具体的義務として、アカウントの公開義務や停止義務が要求される可能性はあります。
これを怠った場合、プラットフォーマー企業が利用者に対し、債務不履行に基づく損害賠償責任を負う場合がありえます。
具体的事例として、売主と買主を仲介し、料金を徴収する旨の契約である場合、このような損害賠償責任を負う可能性があります。
4 コメント
上記のように、プラットフォーマー企業が利用者に対し、債務不履行責任を負う可能性は否定し切れません。
善管注意義務として要求される義務は、客観的には明確でない場合が多く、これについて規定していない場合、プラットフォーム企業としては予想外の責任を負う可能性があります。
そこで、利用者との契約の段階において、善管注意義務について具体的な規定を置くと良いかもしれません。
たとえば、「商品の未発送がある場合、それをした事業者を公開する。」、「商品の未発送が一定数ある場合、サイトの利用を停止する。」などの善管注意義務を具体化した規定などです。
また、出品者との間でも、何の予告もなく商品の未発送等の公開やアカウント停止措置を取ると、営業上の利益が害されるなどのクレームが予想されますので、同様の規定を出品者との契約で取り決めると良いかもしれません。
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