オリンパス株主が監査法人を提訴、会計監査人とその責任について
2019/07/23 会社法
はじめに
2011年に発覚したオリンパスの巨額の損失隠しに関して、同社の個人株主が「あずさ監査法人」を相手取り約2112億円の賠償を求め東京地裁に提訴していたことがわかりました。会計監査人に対する株主代表訴訟は珍しいとされます。今回は会計監査人とその責任について見ていきます。
事案の概要
報道などによりますと、オリンパスはバブル崩壊による多額の損失を隠すため実態とかけ離れた高額でのM&Aを行い特別損失として計上することにより本当の損失原因を隠してきたとされます。2011年4月に同社のイギリス人社長マイケル・ウッドフォード氏が一連の粉飾行為を指摘して発覚、同氏は社長職を解任されるも翌2012年2月に菊川元会長ら7名が警視庁および東京地検特捜部に金商法違反で逮捕・起訴され有罪判決が出ております。そしてあずさ監査法人に対しても監査体制の不備を理由に金融庁から業務改善命令が出ているとのことです。
会計監査人とは
会計監査人とは株式会社の機関のひとつで会社の計算書類等を監査し、監査報告を作成することを職務としております。公認会計士または監査法人のみが就任でき、他の役員と同様に株主総会で選任することになりますが監査役設置会社の場合は選任・解任の議案は監査役が決定することになります(会社法344条)。設置は原則任意ですが大会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社は必須となります(328条、327条5項)。任期は1年で定時総会で別段の決議がされなければ自動的に再任されたものとみなされます(338条1項)。
会計監査人の責任
会計監査人は取締役や監査役、会計参与とちがい会社役員ではありません。しかし役員と同様に委任の規定が適用され会社に対しては善管注意義務を負います(会社法330条、民法656条、644条)。善管注意義務違反があればやはり役員と同様に会社に対して損害賠償義務を負うことになります(任務懈怠責任、会社法423条)。そしてこの場合、会社が会計監査人に責任追及を行わなければ株主が会社に代わって提訴する株主代表訴訟を提起することができます(847条)。この株主に株式の保有割合に関する制限はありませんが、公開会社では6ヶ月以上の保有が必要となります。
会計監査人の任務懈怠
それではどのような場合に会計監査人に任務懈怠があったと言えるのでしょうか。公認会計士は会計監査を行うにあたり、金融庁が定める「監査基準」「監査に関する品質管理基準」「監査における不正リスク対応基準」そして公認会計士協会が定める「実務指針」等に基づいて職務を執行する必要があります。そして裁判例では、これらの基準を前提にその能力と実務経験に基づいて十分な監査証拠を入手するための正当な注意をもって、個々の会社の状況に応じて監査計画を策定し多様な証拠を入手し必要十分な手続きを実施することが善管注意義務の内容としています(大阪地裁平成20年4月18日)。つまり過失なくこれらの基準に基づいて一般的に要求される水準で誠実に監査していれば、仮に粉飾を見逃したとしても賠償責任は負わないと言えます。
コメント
以上のように会計監査人の任務懈怠責任は各種監査基準に従いその能力と実務経験に基づいて一般的に要求される水準の監査を行ったかが問題となります。本件であずさ監査法人はオリンパスの巨額の買収案件について別の監査メンバーが審査する上級審査を行わなかった点を金融庁が問題視し業務改善命令を出しております。その点が任務懈怠に当たるかが主な争点となるものと思われます。粉飾決算等の不適切会計事案が生じた場合は第一次的にはやはりそれを行った取締役等の役員に責任が生じます。そして場合によってはそれを見抜けなかった会計監査人にも責任が及ぶこともありえます。その場合には株主から責任追及の声があがることが想定されます。これらの問題が生じた場合には株主が誰の責任を追求してくるかも予め把握した上で対応を準備しておくことが重要と言えるでしょう。
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