弁護士が提訴依頼を6年放置、時効の中断事由について
2019/11/26 コンプライアンス, 民法・商法
はじめに
依頼人からの提訴依頼を6年間放置して時効消滅し賠償金が取れなかったとして弁護士と所属する弁護士法人を相手取り損害賠償を求めた訴訟で先月28日、和解が成立していたことがわかりました。解決金は1億6750万円とのことです。今回は民法の時効の中断事由について見ていきます。
事案の概要
朝日新聞によりますと、原告側の男性は2008年8月に大阪市内で自転車に乗っていた際にトラックと衝突して両手足に麻痺などの後遺症が残ったとされます。男性の遺族は2009年12月に同弁護士法人に賠償請求を依頼しましたが所属の弁護士は2016年5月に提訴し、大阪地裁は2017年11月に時効を理由として請求を棄却したとのことです。原告側の男性は時効前に訴訟を提起する職務上の注意義務を怠ったとして弁護士側を提訴。弁護士側は運転手の保険会社と交渉中で時効は中断していると思っていた旨反論していたとされます。
時効と中断
民法上、債権は10年、所有権以外の財産権は20年、不法行為による損害賠償請求権は3年で時効消滅します(民法167条1項、2項、724条)。それ以外にも運送費や診療報酬など1年~3年で消滅する短期消滅時効が定められているものも存在します(170条~174条)。これらの時効は権利を行使することができるようになった時点から進行しはじめます(166条)。つまり権利を行使することができるにも関わらず放置していたことによって消滅するということです。それではどうすれば時効を止めることができるのでしょうか。以下具体的に見ていきます。
時効の中断事由
(1)請求
民法147条では時効の中断事由として請求、差押、仮差押、仮処分、承認が挙げられております。請求とは訴訟の提起など裁判上の請求を言います(149条)。支払督促や和解、調停でも同様に時効は中断します(150条、151条)。なお訴えが却下されたり取り下げた場合は中断の効果はなかったことになります。
(2)催告
訴えを提起しなくてもとりあえず一時的な措置として中断させる方法として催告があります(153条)。方式は特に決められてはいませんが通常は催告をしたという事実を証拠として残すため内容証明郵便で行います。この催告後6ヶ月以内に訴訟などの手続きを取らなければ中断の効力は生じません。あくまでも暫定的な措置だからです。
(3)差押等
債権者が債務者の財産を差押、仮差押などを行った場合も時効は中断します(154条)。抵当権などの担保権を持っている場合はそれによって差押、競売を行えますが、一般債権者の場合は原則としてまず訴訟を行う必要があり、その場合に行われる仮差押や仮処分でも同様に中断の効果は得られます。なおやはりこれらの手続きが取り消された場合は中断はなかったことになります。
(4)承認
債務者の側から積極的に債権の存在を認めるような行為を承認と言います。債務の一部を履行する行為や支払いの猶予を懇願する行為、減額の交渉などが該当します。債務者が知らず知らずのうちに自ら時効を中断してしまっている場合が多いと言えます。なお承認は法律行為ではないことから被保佐人や被補助人も単独で行うことができるとされております。逆に未成年者や成年被後見人は単独ではできません(大判昭和13年2月4日)。
民法改正による注意点
これまで何度も取り上げてきましたが来年2020年4月1日から改正民法が施行されます。時効についても改正が加えられており、時効の中断は「時効の更新」、時効の停止は「時効の完成猶予」と呼び方が変わります。そして中断事由についても変更があり、請求や支払督促、調停、倒産手続参加、強制執行などで一旦完成猶予となり確定することによって更新となります。取り消しなどで確定しなかったときは6ヶ月間完成猶予が続き、その間に別の手段を講じることとなります(改正民法147条、148条)。なお承認については現行法と変わらず直ちに更新となります(改正民法152条)。
コメント
本件で原告側の男性がトラックと衝突したのが2008年8月となります。詳細は不明ですがこの時点で損害と加害者を知ったと考えられることからこの時から3年後の2011年8月に時効が完成するものと言えます。弁護士側は「保険会社と交渉中で時効は中断していると思っていた」としていますが、一般的に任意保険会社は加害者の代理人的な立場であり、保険会社からの支払いは承認にあたるとされております。しかし交渉段階では承認と認められなかったのではないかと考えられます。このように時効の中断はかなり複雑な規定が民法に置かれており、正確に要件を把握しておかなければ権利が消滅してしまうこととなります。来年の改正法も踏まえて時効を中断させるにはどのような行為が必要かを整理しておくことが重要と言えるでしょう。
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