反社会的勢力の定義と取引における重要性
2019/12/23 契約法務, コンプライアンス, 民法・商法
はじめに
反社会的勢力(反社)の定義に関し、政府は12月10日、「その時々の社会情勢に応じて変化し得るものであり、限定的かつ統一的に定義することは困難」とする答弁書を閣議決定しました。また、菅義偉官房長官は11日の記者会見で、反社会的勢力について「犯罪が多様化しており、定義を固めることは逆に取り締まりを含め、かえって複雑になる」と述べています。
では、上記政府見解は実社会にどのような影響を及ぼすでしょうか。具体的には、「反社会的勢力」とは何か。企業間取引ではどのような点を注意すべきかにつき検討したいと思います。
反社会的勢力とは
そもそも、反社会的勢力の明確な定義はあるのでしょうか。
この点、政府は2007年の指針において反社会的勢力を「暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人」と定義しており、一見すると先の政府見解と矛盾しているようにも見えます。
しかし、法律において「反社会的勢力」を明確に定義している条文はありませんし、政府の指針や閣議決定に法的拘束力はありません。よって、政府の見解が矛盾しているのは別として、反社会的勢力の一義的な定義は存在しないと言えます。
実社会における反社条項
現在、企業間の取引で作成される契約書には、反社会的勢力の排除条項(反社条項)が記載されているのが通常です。契約によっては双方で覚書を交わす場合もあります。その他にも、不動産の賃貸借や携帯電話の購入時等、日常生活の様々な場面で確認される事もあるでしょう。このように、現代社会において「反社会的勢力」という言葉は日常的に使われ、現代社会において重要な意義を有しています。
よって、一義的な定義自体は存在しないが、一定の社会共通認識は存在すると言えます。
契約における反社条項の重要性
では、なぜこのような反社条項が必要なのでしょうか。
その理由の一つに、レピュテーションリスク(企業の信用やブランド価値が低下し、損失を被る危険)を未然に防ぐということが考えられます。一度低下した企業イメージの回復は困難ですし、売上等の低下は、金額次第では会社の存続に重大な影響を与える可能性もあります。
また、反社組織と取引することで様々なトラブルに巻き込まれるリスクもあります。例えば、刑法上の「暴行」、「脅迫」等の犯罪行為がなされれば、 警察に対応してもらうことが考えられます。
一方民事の世界では基本的に、警察の「民事不介入」、「契約自由の原則」が妥当します。よって、犯罪に該当しない場合、警察に対応してもらえず不当な取引に巻き込まれるリスクがあります。
そこで、事前に反社条項を契約書に記載することで、上記のリスクを回避することが考えられます。具体的には、反社組織との関係が認められた場合に、契約の無催告解除ができる事や、損害が発生した場合の損害賠償の取決めなどが考えられます。特に、反社条項に違反した場合には、「何らの催告を要さずに、契約を解除することができる」との一文や、「甲(解除する側)は、前項の規定(反社条項違反)により個別契約を解除した場合には、乙(反社条項違反で解除された側)に損害が生じても何ら賠償することを要せず、また、かかる解除により甲に損害が生じたときは、乙はその損害を賠償するものとする」等、具体的に規定することが望ましいでしょう。
コメント
重要なのは契約や取引をする際に、反社条項を具体的に定め、相互にしっかりと確認することでしょう。
特に、「反社会的勢力」の定義は具体的に定めるべきでしょう。解除の可否や損害賠償事項を定めたとしても、「反社会的勢力」の定義が曖昧ではどのような者と取引したら解除や損害賠償が可能かが不明確となってしまいます。
よって、反社会的勢力に一義的な定義がない以上、契約当事者間で具体的に反社の定義を定め、後々トラブルが発生しないようにする必要があります。例えば、単に暴力団やその関係者、総会屋等を列挙するだけではなく、例示の最後に「その他、暴力、威力と詐欺的手法を駆使して経済的利益を追求する集団または個人(以下、まとめて反社会的勢力という)」等を付け加えることで、具体的かつリスク回避目的に沿った内容となります。
以上を踏まえ、企業であれば自社の契約書の雛形に反社条項があるか、あるとしてその内容は十分かを確認する事は有用かと思われます。
また、相手方の契約書で契約を締結する場合はその内容を十分に確認する必要があるでしょう。今後も反社条項は、その重要性を増していくと思われます。そして、社会の変化に対応した柔軟な規定を作り続けていくことが重要でしょう。
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